再エネと水素でCO2ゼロに

 2019年1月には、再生可能エネルギーの利用に関する新たな目標を発表した。

 2050年度に購入電力の100%を再エネに切り替え、自家発電システムの主燃料を水素に転換し、世界の拠点でエネルギー使用時のCO2排出をゼロにする。「SVP2030」の目標年を超える長期目標だ。中間目標として、2030年度に購入電力の50%を再エネに転換する。

 既にオランダにある工場では、敷地内に風力発電設備を設置したうえ、購入電力も風力由来に切り替えいる。英国でも、購入電力の一部を太陽光発電に転換するなど、欧州を中心に転換が進む。

 富士フイルムホールディングス経営企画部CSRグループの久保和美マネージャーは、「再エネについては、拠点を置く地域ごとに調達のしやすさなどを考慮しながら、適切なタイミングで導入していきたい」と話す。

敷地内に風力発電設備を設置して、購入電力も風力由来に切り替えたオランダ工場
(写真提供:富士フイルムホールディングス)

 一般に、再エネを活用する場合に課題となるのが調達コストだ。久保マネージャーは、「ベルギーでは再エネ由来の電力が最安値となる機会をとらえ、購入電力は2020年に化石燃料由来から再エネに切り替える契約を締結している。今後は他の国でも再エネ電力の価格が低下するとみている」と説明する。

 目標設定の際は、自家発電システムからのCO2削減も課題となった。

 現在、富士フイルムグループは世界の拠点でエネルギー需要の約半分を購入電力、残りの半分を天然ガスを燃料にしたコージェネレーション(熱電併給)システムで賄っている。高機能フィルムの製膜や乾燥工程に必要となる高温の蒸気を、コージェネシステムから供給している。

 しかし、高温のプロセスに必要な熱の供給は、再エネなどの電力に置き換えることが難しい。そのため、コージェネの燃料を化石燃料からCO2排出を伴わない燃料に置き換える必要がある。そこで、現在は実用化されていない水素関連技術も、2050年までには経済合理性が成り立つと想定し、水素活用により自家発電でもCO2排出をゼロにできるという目標を設定した。

 水素は、製造過程でCO2を発生する場合もある。これも、CCS(CO2回収・貯留)やCCU(CO2再利用)などの技術によって、排出ゼロを目指す考えだ。

需要家の行動が変革の起点

 富士フイルムグループがこのような意欲的な目標を掲げた背景には、企業の目指す姿として、既存の方法論では到達できない目標を具体的に示すことで、イノベーションを促したいという考えがあった。

 「世界で中長期的に化石燃料の利用が制約されるとみられる。エネルギーの調達リスクを考えることは重要な経営課題。目標を示すことで、ステークホルダーに働きかけたいと考えた」と、中井統括マネージャーは説明する。続けて、 「需要家が、どのようなエネルギーを採用したいと考えているか、声を上げることは供給側の技術開発を後押しすると期待している。経済合理性だけではなく供給安定性の面でも、需要家がニーズを示す効果は大きい」と話す。

 目標の発表後、社内外から目標に関わる様々な情報や提案が集まり始めている。気候変動対策や再エネ利用に積極的なイニシアチブや団体から、一緒に活動してほしいという要請も急増した。気候変動対策をはじめとする環境や社会の課題に関心を持つ投資家とのコミュニケーションも増えたという。「様々なステークホルダーから問い合わせや評価が寄せられ、手応えを感じている」と、久保マネージャーは話す。

 富士フイルムグループが掲げた長期目標は、再エネや水素の供給インフラを担うエネルギー業界をはじめとする産業界など様々なステークホルダーに、大きなインパクトを与えるだろう。需要家からの要請が、エネルギー利用のイノベーションを進める起爆剤となりそうだ。