非常事態に備えた初動計画

 「災害以来、業務の量が劇的に増えており、人手が足りない。同業のほかの会社も同じ状況のようだ」(吉田氏)。こうした災害のとき、廃棄物処理を担う企業の存在は復旧の要となる。企業は自らの被災を極力回避し、加えて迅速に機動する準備が必要となる。

 NIK環境はBCP(事業継続計画)を策定しており、災害など非常事態を想定した初動計画を進めてきた。

 「重要なのは、災害時に備えて人員と車両の体制をしっかり考えておくこと」と吉田氏は強調する。従業員とは日中、夜間、休日のいつでも連絡を取れるようにしておく。車両を安全な場所に移動する経路なども考慮して避難訓練を行う。車両の燃料も重要事項なので、非常時には優先的に補充できるよう、ガソリンスタンドとの取り決めも検討中だ。50人近い従業員やパート人員の、3日分の非常食やトイレも準備している。

 吉田氏は、「BCPの制度を書類上で整えるだけでなく、日ごろから災害や自然とどう向き合っていくか、一人ひとりの意識を高めることも大切ではないか」と、災害に対する意識向上を訴える。

 同社は10年以上前から、西日本豪雨で堤防が決壊した高梁川の支流、小田川の除塵作業に携わってきた。

 「大雨で満潮になるたびに大型ポンプで水を汲み出すなど、以前から危ないと感じることがあった。しかし、倉敷はもともと雨が少ない地域なので、地元住民が危機意識を持つのは難しかったかもしれない。2018年7月の豪雨も、倉敷が豪雨に見舞われたのではなく、北部の中国地方で降った雨水が集中して押し寄せたという背景があった。自然への畏怖の念を忘れず、その力を普段から実感していれば、防ぐことができたのではないかという思いはある」

 同社は、環境保護への取り組みにも力を入れてきた。産業廃棄物や一般廃棄物の処理に加えて、リサイクル活動にも熱心だ。2006年からは、リサイクルによるCO2削減量を“見える化”することで、環境への貢献度を知らせる活動を始めた。資源ゴミを出した町内会や企業に対し、ゴミの重さから算出したCO2削減量をデータで提供するのだ。その活動は岡山県から表彰され、注目を集めている。

 さらに2014年、SDGsの活動の一環として、CO2削減のための取り組みである「SD-1st(エスディーファースト)」という独自のシステムをスタートさせた。企業や団体がNIK環境に廃棄物のリサイクルを委託すると、倉敷市が運営する「くらしきサンサン倶楽部」から同社が購入したCO2排出権により、カーボンオフセットされる。委託元には「どんぐりポイント」(経済産業省が実施するCO2排出抑制のためのポイント)が付与されるという仕組みだ。貯まったどんぐりポイントは、倉敷市環境学習センターに寄付することで、地 域の子供たちの環境教育などに有効利用される。

イベント活動や音楽でも訴求

 企業としての活動のほか、吉田氏自身も発信を続けている。地元のラジオ局に出演する機会も多く、「国連で涙ながらに地球温暖化対策を訴えたスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンべリさんのように、心の底から自然環境を守ろうと呼びかけたい」と話す吉田氏。環境保護をテーマにしたライブ活動でもメッセージを伝えている。

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地元ラジオ局の番組で環境保護を訴える吉田氏(左写真、右端)、地元住民と共同で不法投棄を防止するためのクリーンアップ作戦を実施(右)(写真提供:NIK環境)

 こうした環境への強い思いの背景には、自身の原体験がある。1970年代に公害が深刻化した、水島コンビナート地区の近くで生まれ育った。吉田氏が中学生の時に、父親がNIK環境を創業した。大量生産、大量消費が進むなか、「廃棄されているゴミの中には、まだ使えるものがある」と、父親が物を大切にしていた姿をよく覚えているという。

 吉田氏が描く理想の世界は、「いつか自分の仕事がなくなること」、つまり廃棄物がゼロになる世界だ。「SDGsに関する記事を読んでいたら、英国人の学者がSDGsとは何かと子供に聞かれ、『ジョン・レノンのイマジンを聴いて、その意味をよく理解してください』と答えるくだりがあった。『何も所有しない』という彼のメッセージは、私たちに可能かどうか分からないが、廃棄物処理という仕事に携わっているからこそできることがあると信じている」と吉田氏は話す。

 廃棄物処理を通じたSDGsへの取り組みは続く。