風評被害に悩まされた看板商品のうま味調味料のイメージ回復に動き出した。リスクコミュニケーションのシステムを構築し、食と健康の偽情報を払拭する。

 うま味調味料(MSG、グルタミン酸ナトリウム)の発見から110年。味の素グループは2018年9月、勇気を持って一歩を踏み出した。

「味の素が議論に参加すべき時が来た」

 同社が米ニューヨークで2日にわたって開催した「ワールド・ウマミ・フォーラム」で、味の素の代表取締役社長、西井孝明氏は英語でこのように述べた。

 このフォーラムでは、テレビの人気パーソナリティーが進行役を務め、科学、食、栄養、歴史など様々な分野の専門家によるプレゼンテーション、パネルディスカッション、MSGを使った料理コンテスト、試食会といったプログラムが盛り込まれた。

 フォーラムの狙いは、「MSGについての誤解を解く」ことだ。米国では、MSGは健康に悪いというネガティブなイメージがある。1960年代にある学術誌で、「中華料理店で食事をした人が身体の具合が悪くなった」と紹介されたのがきっかけで、MSGは「頭痛を引き起こす」「チャイニーズ・レストラン・シンドローム(中華料理店症候群)が原因」など誹謗(ひぼう)中傷が広がった。健康被害との関連性はその後20年間にわたり議論され、87年にMSGの安全性が認められてひとまず収束した。しかし、いまだ健康への懸念は根強い。「NO MSG」を掲げるレストランや食品もある。

 それにしても、なぜこのタイミングだったのか。

 「米国で偽情報(フェイクニュース)に対する意識が高まったことも大きい」

 こう話すのは同社広報部長の栢原紫野氏だ。「フェイクニュース」という言葉が注目されたのは、2016年にトランプ米大統領が当選したときだ。対立候補だったヒラリー・クリントン氏に関する大量のフェイクニュースがSNSで拡散されたことが選挙結果を左右したともいわれた。これを機に、「情報の真偽をどう見極めるか」について関心が高まっており、味の素もMSGの誤解払拭に向け、「客観的な情報を発信すれば、今なら受け入れられる」(栢原氏)と考えた。

 味の素はさらに米国のコメディアンを起用して「チャイニーズ・レストラン・シンドロームの辞書の定義を見直そう」というキャンペーンを行った。「MSGについて有力な辞書が誤った説明をしているのは好ましくない」(味の素広報部マネージャーの髙橋幹氏)との判断からだ。この問題提起は20年1月に米ニューヨーク・タイムズ紙などのメディアで取り上げられ、反響を呼んだ。