「人生100年時代」、伊藤園はお茶を通して健康寿命を延ばし、豊かで健康な社会の実現に貢献しようと動く。中央研究所が認知症や生活習慣病に対するお茶の効能を検証、「健康フォーラム」開催などで情報を発信している。

 お茶の伝統から健康性に至るまでの価値を提供し、生活提案を行う「世界のティーカンパニー」を目指す。伊藤園は、「人生100年時代」を迎え超高齢化が進む今、特に健康価値の提供に重点を置いた活動を推進している。

 活動の中心的な存在が伊藤園中央研究所だ。健康寿命を延ばすためには病気になってから薬で治療するのではなく、日々の食事を通して病気を予防することが重要になる。日本人に身近な飲料であるお茶を通してそれを実現できないかと近年、研究予算を増額し、戦略的に緑茶の効能の分析を行っている。

 同研究所の衣笠仁所長は、「健康寿命を延ばすことができれば一人ひとりの生活の質(QOL)が向上する上、医療費や介護費の抑制につながる。SDGsが目指す豊かで健康な社会の実現に貢献できる」とその意義を説明する。

認知症・生活習慣病への効果検証

 お茶には抗酸化作用やリラックス効果、美肌効果など様々な効能が指摘されている。そんな中、伊藤園中央研究所は高齢化の進行で患者が増加し、社会課題ともなっている認知症と生活習慣病に的を絞り、お茶の効能を科学的に証明しようと動いている。

 お茶に含まれる成分のうち、アミノ酸の一種であるテアニンと渋み成分のカテキンに注目した。これらの成分を上手に摂取することで、病気になる前の「未病」の状態にとどめたり、病気の進行を遅らせたりできないかと検証中だ。中央研究所単独での研究のほか、東京大学、理化学研究所など外部機関とも連携しながら研究・分析を進めている。

 成果は既に出ている。脂質吸収機構の第一人者で現在東北大学未来科学技術共同研究センター教授を務める池田郁男氏との研究で、「ガレート型」と呼ばれるカテキンには食事の脂肪吸収を抑制する効果があり、継続的に摂取することで体脂肪を低減する機能があることを確認した。

 現在、理化学研究所で生命機能科学研究センター細胞機能評価研究チーム・チームリーダーを務める片岡洋祐氏らとの研究では、テアニン含有量の高いお茶を粉砕し充填したカプセルを1年間摂取し続けた高齢者に毎月、認知機能テストを実施した。得点は改善傾向を示し、日常生活でお茶を上手に取り入れることが、脳機能の維持に役立つ可能性を示唆した。

 現在は島津製作所と筑波大学発ベンチャーのMCBIと共同で、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)を対象とする臨床試験を実施している。カテキンやテアニンの含有量が多い抹茶に認知機能低下を抑える効果があるのではないかと検証している。

 これらの研究には億単位のコストがかかるが、伊藤園中央研究所が取り組むべき重要な研究と位置付け、予算を集中的に投入する。

 お茶による健康機能の解明には伊藤園のグローバル戦略を後押しする役割も期待されている。伊藤園は2022年4月期までの中長期経営計画で「世界のティーカンパニー」実現のため、国内事業の強化とともにグローバル展開の加速を掲げる。グローバルブランドである「お~いお茶」や海外専用製品「MATCHA GREEN TEA」を軸に日本の文化である「お茶」を広めるとともに、あらゆる「お茶」に携わる企業を目指している。

 衣笠所長は、「緑茶も抹茶も世界で売るには『おいしさ』だけでは十分ではない。健康という付加価値をアピールしていく必要がある。海外では特に抹茶が健康に良いスーパーフードと認識され、3年で『MATCHA GREEN TEA』の売り上げが倍増するなど一種のブームになっている。健康面の効能を科学的に証明し、さらなる拡販の足がかりとしたい」と意気込む。

2019年8月に体脂肪を減らす効果がある機能性表示食品としてリニューアル以来、3カ月間の売り上げが前年同期間比で1.5倍となった「お〜いお茶 濃い茶」(写真提供:伊藤園)
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 伊藤園は研究で得た科学的エビデンスを商品のPRにも活用し始めた。04年に発売以来、40~50代の男性を中心に支持されていた「お~いお茶 濃い茶」を19年8月にリニューアルした。ガレート型カテキンが体脂肪を減らすことを証明する論文を基に消費者庁に対して機能性表示食品としての届け出を行った。

 商品ボトルに体脂肪を減らす効果があることを伝えるアテンションPOPを貼ったところ、「9~11月の売り上げは前年同期比で1.5倍に拡大した」(鷹野昇CSR/ESG推進部副部長)。

 伊藤園は体脂肪やコレステロールを減らす「カテキン緑茶」など特定保健用食品も販売しているが、特保の認定を取得するにはコストと時間がかかる。今回、中央研究所の研究成果を活かし、従来から人気の製品を機能性表示食品として販売するという新たなアプローチで、コストを抑えつつ健康に関心を持つ消費者の需要をつかむことに成功した形だ。