三方よしの企業理念で原点回帰とESG経営へのコミットを表明した。業容が多岐にわたる商社が強みを発揮できる循環経済へと転換を図る。

 大手総合商社の伊藤忠商事は、2020年4月から企業理念を「三方よし」に改定すると発表した。「三方よし」は「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」という近江商人の心得で、売り手と買い手の満足だけではなく、社会にも貢献できるのがよい商売という考え方だ。

 サステナビリティ推進室長の田部義仁氏は、「約160年前に創業した伊藤忠兵衛の経営思想である『三方よし』は弊社に脈々と継承されており、現在社会に求められているESGやSDGsの理念にも通じ、それらにコミットする姿勢を明確にしたともいえる」と話す。

 これまで同社にあった、ビジネスが成立するためには社会への貢献が不可欠という考え方を、さらにサステナビリティの観点から、「循環経済(サーキュラーエコノミー)」をキーワードに新しいビジネスを推進しようという動きが強まっている。

 「大量消費、大量生産型のリニア・エコノミー(直線経済)は経済成長をけん引してきたが、環境や資源の問題も引き起こした。これからは限られた資源やエネルギーを循環させ、『三方よしの資本主義』であるサーキュラーエコノミーがますます求められる」と田部氏は言う。

ブドウの種子から良質な油

 19年12月、気候変動に関するアドバイザリーボード(有識者会議)を開き、「循環経済」に関して意見交換を行った。大学教授や行政関係者などの有識者と、代表取締役専務執行役員CAOである小林文彦サステナビリティ委員長をはじめ、繊維、機械、金属、エネルギー・化学品、食料、住生活、情報・金融、第8の8つのカンパニーの経営企画部長が参加した。各カンパニーからは今取り組んでいる循環経済ビジネスの内容や計画について、時聞が足りなくなるほど熱のこもった発表が繰り広げられた。

 サステナビリティ推進室の黛桂子氏は、「商社は業容が多岐にわたるため、潜在的に社内で循環経済に資するビジネスが生まれやすい」と説明する。数多い海外拠点も強みだ。

 循環経済ビジネスの例は、食料カンパニーによるフランス産のグレープシードオイルの製造がある。ブドウの種子から抽出する油は日本のスーパーでも販売されており、淡い緑色のさらりとした質感で、風味はクセがなく、コレステロールゼロでビタミンEも多い。良質で健康的な食用油としてはもちろん、化粧用、マッサージオイルとしても使われる。

 種子はワインを製造するときに出てくる残さである搾りかすに含まれる。そのうち、茎や皮の部分はブドウ畑の肥料やバイオマス燃料となり、種子は製油所で搾油、精製される。ワイン製造において廃棄物は排出されずブドウはくまなく有効活用されるのだ。

 伊藤忠は15年、フランスの植物油製造・販売会社を買収し、世界的には特に希少といわれるフランス産グレープシードオイルのマーケティングに力を入れている。

 ファッション界で注目されている再生素材を手掛けるのは、繊維カンパニーだ。19年、再生ポリエステル素材「RENU®」のプロジェクトを始動した。工場で出た生地や残反などを回収し、ポリエステルのチップにしてオリジナルの素材を作る。服から服へと再生させる、循環型のプラットフォームをつくる。

 機械カンパニーが手掛けるのは、EfW(Energy from Waste)と呼ばれる廃棄物焼却発電プラントだ。英国やセルビアで進めており、これまでそのまま埋め立てられていた家庭ごみを発電に役立てる。

 伊藤忠は19年、日本の総合商社として初めて、欧州の拠点でグリーンファイナンスの融資を受け、EfWほか、再生可能エネルギーも併せて、1.5億ユーロの資金を調達した。

■伊藤忠商事が進めるサーキュラーエコノミー事業
資料提供:伊藤忠商事
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