台風前にEVで防災訓練

 NTT東日本がすぐに対応できたのは、事前に千葉市と包括連携協定を結び、EVを使って電力を供給する防災訓練を合同で行ったことが背景にある。

 19年2月、千葉市とNTT、NTT東日本、及びNTT関連会社のTNクロスの4者で、「災害時の新たなエネルギーインフラ活用等の実証に向けた共同検討に関する協定」を締結した。様々な災害への備えとして、台風が来る直前の8月には、EVを用いた訓練を行っていたのである。

 大規模停電は、18年の北海道胆振東部地震でも起きている。その際、地元のコンビニエンスストア、セイコーマートがEVで店舗に電気を供給し、被災直後の市民の生活を支えた事例があった。「同じような災害があったときに当社も何かできないかと考えたのが、今回の協定締結のきっかけになりました」と同社千葉事業部ビジネスイノベーション部マーケティンググループ第二マーケティング担当部長の田部井創氏は言う。

 18年にNTTの澤田純社長が記者会見で、30年までに保有車両をEVにすると発表していたこともあり、千葉事業部では3台のEVがすでに使われていた。この時はグループのリース会社から提供された車両と合わせ、合計4台のEVを派遣することができた。

 台風15号の経験を踏まえ、10月12日に日本に上陸した台風19号による停電には、さらに迅速に対応することができた。13日朝9時には千葉市役所に応援を申し出て、停電している公民館に電力を供給した。

 「避難所というと体育館のイメージがありますが、公民館に避難する人も多かった。畳や布団があるなど居住性が高いだけでなく、情報収集をするためのモバイル機器を10台ぐらい一度に充電できる設備を用意したことが大きかったようだ」(八島氏)

 EVを派遣した越智(おち)公民館では、モバイル機器の充電をする人たちが次々と訪れ、13日夜にはEV1台の電力では足りなくなり、もう1台のEVを派遣した。

■台風被害で電力供給が途絶えた福祉施設や公民館などにEVを派遣
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NTT東日本千葉支店が所有するEV(左)が、家庭用に電力を変換する機器を積んで各所に赴いた(右)
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台風19号で千葉市緑区の越智公民館を訪れた時の様子(上)。NTTドコモの携帯電話マルチチャージャーを設置し、避難者たちに利用してもらった
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同じ緑区内で土砂災害が発生し、通学路として使われている道路が崩壊(上)。千葉市は市街地と丘陵地が近接しており、市民の身近な場所でこうした被害が発生した
(写真提供:NTT東日本)

 このような取り組みについて、千葉市からは「民間企業との取り組みが重要だという認識を新たにした」と感謝を受けたという。行政だけで災害対策をするのには限界がある。発電機やEVなど、平常時に企業が業務で使っている物が、災害時には有効な“資産”となりうる。災害時には民間と行政の連携が重要だということを、互いに強く認識する機会となった。

 さらに、NTTグループとしては、東京電力との折半出資で18年に立ち上げた電力ビジネス会社、TNクロスとともに、千葉市において災害に対応できる電力事業を進めてゆく。千葉県では一部の小中学校に太陽光パネル発電機を設置しているが、災害対策のため蓄電設備も備えていく計画だ。

他の自治体からも高い関心

 今後の課題は第一に、千葉市とNTT東日本との「情報の連携」だ。「現場で起きている情報を迅速につかむため、ビッグデータやAIも活用して、最適な対策を取れるよう、今後も行政と検討していきたいと思う」(田部井氏)。

 NTT東日本千葉事業部には今、災害時の電力供給について、他県の自治体からも問い合わせが相次いでいる。「各事業部やグループ各社を通じて、千葉県のみならず全国各地で、積極的に地域と協力していきたい」と、田部井氏は意欲を見せる。

 今後、災害時の民間企業と行政との連携がますます注目を集めそうだ。