創始者の想いが活動の土台に

 こうした健康情報を提供する活動の根底にあるのは、ヤクルトの創始者である代田(しろた)稔氏の想いだ。1935年の創業当時、日本は衛生状態が悪く、感染症で亡くなる子どもが多かった。医学博士であった代田氏は予防医学の必要性を説き、腸の環境を改善して免疫力を高める乳酸菌の作用に着目して、乳酸菌飲料「ヤクルト」を開発したという経緯がある。

 「予防医学」の大切さを強調し、栄養素を吸収する腸を丈夫にすることで「健腸長寿」を目指す。誰もが願う健康を、「誰もが手に入れられる価格で」提供する「代田イズム」の考え方が、ビジネスのみならず、長年に及ぶヤクルトの社会貢献活動を支えている。

 これらの地域で活動に携わるのは、販売会社の社員たちだ。商品を自宅や勤務先に届ける、「ヤクルトレディ」を主体とした訪問販売で築いたネットワークが強みとなり、活動の機会を増やしてきた。

 講師役を果たす社員たちは、模型やスライドなどの素材提供を受けるものの、話の組み立ては各々の自主性に任されている。プログラムには独自の工夫が施され、バラエティーに富んだものとなっている。

 「健康教室では商品の販売はしませんが、地域の人との関わりを深めることで、結果としてヤクルトという会社や商品のファンを広げることになっていると思います」と、同社広報室長とCSR推進室長を兼務する石黒仁氏は話す。

誰一人取り残さずに健康を

 一方、海外では訪問販売員の問題意識がきっかけとなり、地域の課題に取り組む例も出ている。メキシコでは保健省の働きかけもあり、孤児院や養老院への訪問活動を始めた。

 経済的に恵まれなかったり、麻薬組織の抗争で両親を亡くした子どもたちが入居している孤児院は、政府の補助や寄付のみで運営されていることが多い。施設が古い上に、最低限の食事しか提供されないこともある。そうした環境下で、健康知識が不足している子どもも多いという。

 さらにメキシコでは昨今、清涼飲料水で糖分を取りすぎたり、脂質の多い食事を好むなどの偏食によって、肥満が社会問題となっている。

 こうしたなか、同社の現地販売員が孤児院を訪問し、肉・魚・野菜・穀物などをバランスよく食べるという食生活の基礎を教えている。

 「健康について学ぶ機会がなかった子どもたちは好奇心がいっぱい。現地販売員による楽しい授業は、大変喜ばれています」と、国際部事業推進課課長の梅田武志氏は話す。

 2018年にはメキシコの孤児院47カ所で4357人の子どもたちに向けた出前授業を、養老院での健康教室は73カ所、1万7736人に実施した。

 一方インドネシアでは、市民の間で健康への意識が高まっている。地域コミュニティーのつながりが強いことも後押しとなって、出前授業や健康教室が盛んに行われている。「移動式の健康教室カーを走らせては、診療所やミニマーケットなど限られたスペースを活用し、健康情報を伝えています」と、国際部事業推進課主事の市川仁司氏は話す。専属講師も約100人をかぞえ、ヤクルトの生い立ちから菌の働き、免疫の話やヤクルトの安全・安心な品質への取り組みなど、内容は幅広い。

 こうした海外での活動は、対象国の背景や事情を踏まえて行っており、19年には出前授業を世界15カ国、健康教室は21カ国で実施した。

 ヤクルトでは、誰一人取り残さないというSDGsの意識をさらに高めるため、毎年CSRキャンペーンを行っている。18年には国内外の社員に向け、SDGs達成のために何ができるかを自ら考える「MY『SDGs』行動宣言」を募集したところ、1万7855人の応募があった。

 「地域の発展とともにある」を掲げるヤクルトは、社員一人ひとりの気付きを生かし、地域に根ざした社会貢献活動を世界で続けていく。