東芝が開発したPMSMは、構造が閉じた全閉式であるのがもう一つの特長だ。従来の誘導電動機はモーター内部の発熱が大きく、冷却のため開放式構造をとるのが一般的だった。それに対し、永久磁石は発熱が少ないので風を通す必要がなく、モーターを密閉構造にできる。
この全閉式は、電力削減だけでなく、メンテナンスの面でも大きなメリットをもたらす。開放式の場合はモーター内部にゴミや埃がたまるため、4〜8年に1度、定期的な清掃が必要だが、全閉式ならその清掃が不要になり、メンテナンス性が向上するというメリットもある。
「何年使っても新品同様で、従来5時間半かかっていたメンテナンス時間を1時間半程度に削減できます。加えて全閉式は開放式と異なり、風を通さないためモーターによる風切り音を抑えられますから、低騒音化の効果もあります」と中沢氏は説明する。誘導電動機と比べて、モーターの騒音を12dB低減することができる。

PMSMは2006年に実用化され、最初は東京メトロ・銀座線で導入された。近年はとりわけ国内の鉄道事業者が環境や省エネへの関心を高めていることから、採用事例が増えているという。
インバーターで高効率化
全閉式のPMSMと組み合わせて使われるのがVVVFインバーターだ。架線に流れる直流の電流を、モーターの周波数に合わせて交流に変える役割を果たす装置である。
鉄道向けの従来のインバーターは半導体素子にシリコンを使っているが、PMSMは各モーターを個別制御しなくてはならないため、従来のシリコンではインバーターのサイズがどうしても大きくなってしまう。
一方、東芝が開発したAll-SiC素子は物性的にシリコンよりも電力損失が少ない材質で、大きな電流を流しても同様の特性を発揮する。これを生かすことによりインバーターの小型化が可能となり、その結果、従来品に比べて装置のサイズを38%縮小することに成功したのだ。
