損失の少ないAll-SiCの採用でモーターに大きな電流を効率的に流せるため、モーター側の高効率化にもつながるという。これにはどんなメリットがあるのだろうか。中沢氏は以下のように解説する。

 「電車のブレーキには、モーターの運動エネルギーを電気に変えて止まる回生ブレーキと、機械的な摩擦で車輪を止めるブレーキの2種類があります。電車がブレーキをかける際、従来のシリコンインバータでは電流量に制約があったので、回生ブレーキとして利用できるエネルギーが少なく、多くの部分が熱として捨てられていました。足りない部分は機械ブレーキを利用するしかなかったのです。ところがAll-SiCを採用することによってインバーターから流せる電流が増えるため、モーターが回生ブレーキを効率的に利用でき、かつ架線により多くの電力を戻せるようになりました。つまり、流せる電流量が多くなれば回生できる量も増えるわけで、回生の比率を上げると結果的に省エネにもつながるというわけです」

回生電力を蓄えて非常用に

 こうして回生された電力を、従来であれば架線に戻し、架線につながっている近くの電車が有効に使うことによってトータルの省エネを実現していた。

 しかし回生できる電力量が増えると、今度は近くに電力を必要とする車両が他にいない場合、その電力を使いきれないケースが発生する。その無駄をなくすには、バッテリーに電力をためて、自らの車両が加速する際など、電力が必要なときに使えばいい。その発想から、今回の丸ノ内線新型車両ではSCiB™を適用した非常走行用電源装置をセットにしている。

 SCiB™は東芝が開発したリチウムイオン二次電池の一つで、構造的に発熱・発火しにくい特長を持つ。1万回以上の充放電が可能と、長寿命でもある。

 かつ低温下の動作に優れ、急速充電にも対応可能。このため鉄道システムに適しており、すでに国内の鉄道車両に非常走行用電源などとして採用されている。欧州の鉄道車両向け安全性規格の認証も取得している。

■ より安全なSCiB™を適用した非常走行用電源装置
非常走行用電源装置(左)にはリチウムイオン電池SCiB™(右)を使用。SCiB™は異常発熱や発火を起こしにくい構造を持つ。-30℃の環境下でも充放電が可能である

 丸ノ内線新型車両に搭載される非常走行用電源装置は、回生電力の有効活用という省エネ視点の貢献に加えて、災害などで大規模停電が発生した際にバッテリーの電気で電車が自走できるため、交通システムの安全・安心に寄与する。

 特に地下鉄の場合、レールの脇に高圧の架線が走っているため、駅以外の場所では乗客を降ろすことができない。しかし非常走行用電源があれば、最寄り駅まで自力で走行することができる。環境と安全性の両面で、まさに一石二鳥の貢献を果たすものといえるだろう。

 この非常走行用電源装置はすでに銀座線で導入されており、効果が実証されている。

小型化でスペースを確保

 ただ、この電源装置を設置するにはスペース的な課題があった。電車の床下には様々な機器が取り付けられているため、新たに機器を設置しようとしてもスペースが足りない。そこで威力を発揮したのが、インバーター装置の小型化である。

 「インバーターの小型化によって車両床下にスペースが生まれ、それによって非常走行用電源装置を搭載することができ、トータルでの効率を大幅に向上できました」と中沢氏は振り返る。

 PMSMの導入実績は、国内で10社以上になり、さらに海外にも実績が出始めた。今後は鉄道の更なる省エネ化に向け、今回の丸ノ内線新型車両のように全閉PMSMと合わせた3点セットにした駆動システムの普及を目指していく。

 まずは省エネの関心が高い国内事業者に採用をはたらきかけ、電気料金が高いアジアの国々にも訴求していきたいとしている。