熱損失見逃さず

 ここに、もう一つのきっかけが加わった。熊本製作所の鋳造現場で働くスタッフの気づきである。

 アルミ鋳造には、3つの熱処理工程がある。製品を530℃の高温で長時間温める「溶体化処理炉」、高温になった製品を水温77℃の水槽に入れて固める「焼き入れ水槽」、170℃で再び加熱して組織を安定化させる「時効化処理炉」。この3つの工程を担うのが熱処理炉であり、その熱源にはガスを使うのが常識だった。

■ 従来型の二輪大型フレームのGDC処理工程 (熱源にはすべてガスを使用)
(出所:ホンダ)
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 同製作所において、熱処理で使用するガス量は生産全体の約39%に及ぶ。環境対応を考えても、省エネは大きなテーマだった。しかも、熱処理炉で使われるエネルギーは、すべてが有効利用されているわけではなかった。使われない熱が排熱となって煙突から逃げている。その光景を見たスタッフが、より効率的な熱利用のアイデアを考えつく。

 熱処理炉は、一般的に2種類に大きく分けることができる。各工程ごとに必要な処理を実施し、次の工程へ製品を移す「バッチ式」と各工程を自動で連続的に製品を処理する「連続式」がある。

 バッチ式は、温度条件や生産量を調整できるので、多品種・少量生産においてはメリットがある。その反面、一つひとつ処理が終わるとフタを開けて製品を取り出すために温度が下がってしまうというデメリットがある。一方、連続式の場合は、一般的に常に同じ温度で同じ時間に設定されるので、1種類の製品を大量に作るのに向いている。そのため、新型「Gold Wing」の生産については連続式の方が適していると考えられた。

 同製作所はもともと、ガスを熱源とするバッチ式のアルミ鋳造用熱処理炉2基を使って操業していた。今回は複数の設備メーカーに、可能な限りエネルギーを有効利用しつつ、高品質のアルミ鋳造の新熱処理炉の開発・設計を相談した。相談したメーカーから提案されたのは、連続式熱処理炉。エネルギー消費を減らす仕組みを取り入れ、従来設備に比べて約20%の省エネを実現するというものだった。

ガスと電気のいいとこ取り

 しかし、この提案を聞いた鋳造現場のスタッフは、約20%という数字に満足しなかった。さらなる工夫を加えれば熱をもっと有効活用でき、省エネを進められるのではないか。アルミ鋳造の現場で蓄積してきたノウハウや経験から、ガスだけでなく電気も使うアイデアを提案した。それが、ガスと電気を併用する新型のハイブリッド熱処理炉だった。

 ガスには、炉内を短時間で温められる、部品の表裏をムラなく温められるといったメリットがある一方、デメリットもある。全体を均一に温められるメリットの裏返しだが、ガスは必要ない部分まで温めるので、熱の多くが有効利用されない。メインバーナーがオフのときも種火は点火状態が続くため、ガスが無駄になる。また、ガスは作業工程に応じた細かな温度調節が難しい。熱損失につながり、コスト面でも無駄が生じてしまう。

 これに対して電気は、ピンポイントで詳細な温度調節を行えるのがメリットだ。しかし、温度が上がるまで時間がかかる他、熱処理工程で必要な530℃という高温を確保するのが難しいというデメリットもある。電気とガスにはそれぞれ一長一短があるわけだ。

■ ガス式と電気式の優位性比較図
(出所:ホンダ)
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 それならば、いっそガスと電気の「いいとこ取り」をすればいいのではないか―。適材適所で使い分ければ、環境とコストの両面でアドバンテージを生み、高品質部品の大量生産という命題にも応えられる。ガスを熱源とする熱処理炉の特徴を知り尽くした生産現場から生まれた、柔軟な発想だった。

 鋳造現場のスタッフは、ガスと電気それぞれのメリットとデメリットを書き出し、設備メーカーとともに時間をかけて検討を重ねた。最終的には、現場の業務で感じていたメンテナンス性をはじめとする様々な改善も取り込み、ガスと電気を併用する新型のハイブリッド熱処理炉という、画期的な仕様が出来上がった。

■ 既存設備、メーカー提案設備、ハイブリッド式熱処理炉の概念図
(出所:ホンダ)
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