4つの工夫で熱損失抑える

 電気とガスを実際にどう組み合わせるか。鋳造現場のスタッフはテストを繰り返し、最適なバランスを探り続けた。

 アルミ鋳造の3つの工程全てを電気に置き換えると、炉内を高温で満遍なく温める必要のある最初の工程でムラが出て、品質面で問題が生じてしまう。検証を繰り返した結果、最初の工程は熱源にガスを使い、残りの2工程を電気に置き換えることで、最適なバランスを実現できることが分かった。

 電気に置き換えるだけでなく、随所に工夫を盛り込んでいった。例えば、焼き入れ水槽で使用する水槽の温度を、溶体化処理炉で発生した排熱で温めるという工夫だ。

 溶体化処理炉では、部品を鉄製のトレーに載せて温めるため、部品だけでなくトレーも熱くなる。そのトレーを焼き入れ水槽に入れることで、水槽内の温度が一気に上昇する。従来はトレーの熱利用など考えず、水槽をガスで温めていたが、この工夫により焼き入れ水槽で使うガスエネルギーを抑えられるようになり、全体のエネルギー使用量の削減につながった。

 また、従来通りガスを熱源とする溶体化処理炉では、部品の出し入れで炉の扉を開閉する際、炉内温度が下がってしまうという課題があった。温度が下がれば再び温めなければならず、その分ガスを使う。

 鋳造現場のスタッフは、ここでも様々なアイデアを提案した。出し入れ時に炉内の温度が下がるのを防ぎ、熱の損失を最低限に抑えるため、大きく4つの工夫を施したのだ。

溶体化処理炉で加熱した搬送トレーを焼き入れ水槽に投入することで、水温を上昇させる(左)。 様々なアイディアを盛り込み、極限まで炉の温度低下を抑えた溶体化処理炉に部品を投入(右)
(写真提供:ホンダ)

 1つ目は、ファンの制御。扉が開く時にファンの回転数を下げて炉内の圧力を下げ、内部の熱が外に逃げにくくなるようにした。

 2つ目は、エアカーテンの設置だ。扉の内側にエアカーテンを設け、外気の進入を防いだ。

 3つ目は、内扉の設置。扉を二重構造にしたことで、外扉が開いても熱が逃げにくくなり、炉内温度を維持しやすくなった。

 4つ目は、トレーの搬送仕様の変更だ。従来のトレーは縦(長辺)方向だったため、トレーが通過するのに時間がかかり、扉が開いている時間も長くなっていた。新型のハイブリッド熱処理炉では、トレーを横(短辺)方向にしたため、通過時間の短縮によって扉の開閉時間を短縮することができた。

 従来型は、搬出入口のサイズ自体は小さいものの、トレーの通過時間が長かったため、エネルギー損失が大きかった。検証の結果、搬出入口を広げても、通過時間短縮による効果の方が省エネ効果が高いことが分かり、この仕様に決めたという。

■ 独自の工夫を取り入れて熱損失を最小限に抑えたハイブリッド式熱処理炉
(出所:ホンダ)
[クリックすると拡大した画像が開きます]

 こうした発想は、アルミ鋳造の現場をよく知るスタッフだからこそ生まれたといえるだろう。一般的には生産設備の開発は企業の生産技術部門などが担うものだが、同社では、現場のアイデアを入れることができれば、もっと良い設備ができると考え、現場が中心となって改善に取り組んだ。設備メーカー側も鋳造現場のスタッフのアイデアを受け入れ、現場のアイデアが詰まった熱処理炉が完成した。

環境対応への取り組みは続く

 今までにない設備の開発は、鋳造現場のスタッフのアイデアを基に設備メーカーとすり合わせ、具現化するまでにかなりの時間がかかるなど、決して順風満帆ではなかった。熱処理炉納入後も、温度などの条件を少しずつ変えて繰り返し品質を確認した。

 新しい設備が無事に動き、投資に見合う生産効率を上げることはもちろん重要だが、やはり最も大切なのは品質。高い品質の製品を提供するためにも、あらゆるパターンを想定して検証しなければならない。今回は電気とガスのハイブリッド型という初めての設備であったため、従来の設備よりも念を入れてテストを繰り返した。

省エネへの高い意識が常識の壁を打ち破ることにつながり、熊本製作所は「平成30年度 省エネ大賞」省エネ事例部門で経済産業大臣賞に輝いた
(写真提供:ホンダ)

 綿密な検証を経て本格稼働を始めたハイブリッド熱処理炉は、従来設備と比べて約39%の省エネを達成し、年間104tのCO2排出削減を実現するなど、大きな成果を生んでいる。2019年1月にはこの取り組みが評価され、「平成30年度省エネ大賞」の省エネ事例部門で経済産業大臣賞(産業分野)を受賞した。マザー工場の取り組みとして、他工場にも参考になる部分があれば、水平展開を進めていく考えだ。

 しかしながら、新熱処理設備である溶体化処理炉は、ガス式のため煙突から出ている排熱の有効利用の余地があり、今後の改善の可能性がある。同製作所では、引き続き現場発でアイデアを考えていくという。

 同社では、よく「走りながら考える」という言葉が使われるという。スタートしてからも、常に工夫することを考えるというものだ。エネルギー消費を減らす活動そのものがCO2の排出抑制につながるので、今後もさらなる省エネに向けて改善を重ねていく考えである。事業活動を通じて環境に貢献するホンダの取り組みは、これからも続いていく。