移行戦略でESG資金呼び込む

 日本では経済産業省がトランジションファイナンスを強力に推進している。20年3月には「クライメート・トランジション・ファイナンスの考え方」を取りまとめ、日本の考え方を世界に発信している。

 20年度中に日本版の「トランジションファイナンス基本方針」を策定する。21年度にはCO2多排出産業を対象としたモデル事業や、業種別ロードマップの策定などが予定されている。今後日本でもトランジションファイナンスに取り組む企業や金融機関が増加すると予想される。

■ トランジションファイナンスに関する国内外の主な動き
■ トランジションファイナンスに関する国内外の主な動き
出所:経済産業省「クライメート・イノベーション・ファイナンス戦略2020」、各社公表資料などを基にみずほ情報総研作成
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 企業がトランジションファイナンスに取り組むメリットは3つある。

 1つ目は、資金調達の円滑化につながり得る点だ。トランジションファイナンスは債券発行や融資による直接的な資金調達のみならず、株式市場における評価の向上にもつながると期待される。また、従来のグリーンファイナンスでは対象外の事業も、企業の移行戦略上の位置づけを明確に示すことで、ESG資金の獲得が可能になると考えられる。

 2つ目は、自社のレジリエンス(耐性)の向上につながる点だ。トランジションファイナンスを実施するには移行戦略の立案と実行が求められる。こうした取り組みを通じて自社の気候変動リスクを把握し、対応策を検討することで、脱炭素化に向けた社会変革が進むなかでも、自社の持続的な価値創造能力を高められる。

 3つ目は、業種や地域の実情を踏まえた評価が可能となる点だ。詳細は後述するが、トランジションは企業が属する業種や国・地域によって違ってもよいと国際的に認められている。業種の特性や地域性を踏まえて立案した自社戦略に対し、投資家などから妥当性を評価してもらうことで、一種の「お墨付き」を得られる。これはグリーンファイナンスやTCFD、科学に基づく温室効果ガス削減目標(SBT)など既存の枠組みのいずれにもない、独自のメリットと言える。

 資金供給を行う金融機関にも、トランジションファイナンスのメリットがあると考えられている。

 例えば、トランジションに資する企業の取り組みは広範にわたるため、グリーンファイナンスよりも広い業種や資産に投融資を行い、リスクの分散化を図れる。また、投融資先企業が自らの移行戦略を策定し実行に移すことで、前述したGPIFによる分析のように、将来的な企業価値の向上によるリターンの増加にもつながると考えられる。

ICMAがガイダンスを公表

国際資本市場協会(ICMA)が発表した「クライメート トランジション ファイナンス ハンドブック」
国際資本市場協会(ICMA)が発表した「クライメート トランジション ファイナンス ハンドブック」

 トランジションファイナンスは新しい考え方であることから、国際資本市場協会(ICMA) の「グリーンボンド原則」のように国際的に参照されるルールがなかった。そのような中、20年12月9日にICMAが「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック 発行体向けガイダンス」を公表したことで、いよいよトランジションファイナンス拡大の土壌が整った。

 経産省が20年度内に策定する日本版のトランジションファイナンス基本方針や、21年度に計画している実証事業、業種別ロードマップ策定などは、ICMAハンドブックを踏まえて進められるという。ルールの明確化を契機に、日本でもトランジションファイナンスが急拡大しそうだ。

 ハンドブックは、トランジションファイナンスの考え方や、ハンドブック作成の趣旨などを記載した「導入」と、トランジションファイナンスにおける開示推奨事項で構成される。開示推奨事項は、企業の気候移行戦略とガバナンス、ビジネスモデルの環境重要性、「科学に基づく」目標と道筋を含む気候移行戦略、実施の透明性─の4つが柱になっている。トランジションファイナンスの検討時に参考になるだろう(3ページの表参照)。