20年10月、日本政府は国連の要請を受けて「『ビジネスと人権』に関する行動計画」(国別行動計画:NAP)を策定した。サプライチェーン上で発生する人権侵害を防ぐため、企業や政府の実施すべき取り組みをまとめたものだ。13年に英国が策定したのを皮切りに既に20カ国以上が策定済みで、アジアではタイが19年に初めて策定している。日本は各国に出遅れての発表になった。

 多くの企業は、児童労働問題と無関係ではない。米国労働省の調査によると、現在も世界76カ国の148品目が児童労働または強制労働によって生産されている。カカオやコットン、コーヒーなどの児童労働が想起されやすい農産物に限らない。自動車やパソコンなどに用いられるリチウムイオン電池の原料であるコバルトや、化粧品などの原料となるマイカもこれらの品目に含まれる。

ハイテクにもリスク

 「自社は関係ない」と油断して気づかない間にサプライチェーン上で人権侵害に関与し、外部から告発されて初めて対応を急ぐ形となった企業も少なくない。コバルトの児童労働は、16年と17年に国際NGOのアムネスティ・インターナショナルがその実態を告発するレポートを発表して世界的な注目を集めた。

 同レポートではソニーを含む電子機器や電気自動車に関連するメーカーが対応の遅れを指摘され、その後業界全体でコバルトのサプライチェーン管理に関する対応が急速に進んだ。

 19年にはアップルやグーグル、マイクロソフト、テスラといった米国を代表する企業に対してコバルト採掘現場の児童労働に関する損害賠償を求める訴訟が起こされた。リチウムイオン電池を使用した製品を世界中で販売する同社らは、子どもたちを児童労働に従事させる鉱山を支援していることになると追及された。

 数十年前であれば、調達先で起きた人権侵害は「自社の責任ではない」と言い逃れることもできたかもしれない。しかし11年に国連総会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」は、企業は自社が直接的に引き起こした人権侵害のみならず、間接的に助長したり事業と結びついている人権侵害にも責任を負うべきとした。自社が調達する原料の生産現場で起きている児童労働を看過することは許されないのだ。

 サプライチェーンにおける児童労働の発覚は、企業活動に甚大な影響をもたらす。下の図のように児童労働リスクの事業影響は、業績悪化と企業価値毀損の大きく2つに大別できる。前者には消費者による不買運動や取引停止による売り上げ低下や、罰金や訴訟対応によるコスト増大が含まれる。また、近年は大手企業が取引先に対して環境や人権に関する調達基準の遵守を求める場合も多く、こうした基準の未充足により大型取引を失う可能性もある。

 後者の企業価値毀損には、ESG投資の観点への不適合による投資の撤退や、児童労働関連の告発によるブランド毀損や人材損失が含まれる。いわゆるミレニアル世代やZ世代は社会課題への関心が高く、採用競争力を高めるためにも人権関連のトラブルは防ぐ必要がある。

 児童労働発覚により大幅に売り上げを失った企業として、00年以前の事例だが、米ナイキが有名だ。製造委託先であるインドネシアやベトナムの工場で就労年齢に達していない少女達が低賃金での強制的労働や日常的な性的暴行などにさらされていたことを国際NGOが摘発した。世界的な不買運動が広がった結果、売上高が急激に落ち込んだ。ACEなどの試算によると、5年間累計で約1兆3764億円の損失になり、連結売上高の約26%が失われたとされる。こうした事例は後を絶たない。

■ 児童労働リスクが企業活動へ与える負の影響
■ 児童労働リスクが企業活動へ与える負の影響
出所:各種公開情報に基づき作成(児童労働白書より抜粋)
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