肝は貯留後の観測

 貯留は16年から、北海道苫小牧市の太平洋沿岸にある製油所の傍らで、CO2の回収から貯留までを行う実証が始まり、3年8カ月で約30万tを貯留して終了した。エネルギーや鉄鋼など35社が出資する日本CCS調査(東京都千代田区)が手がけた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業だ。

 出光興産の北海道製油所で石油精製の際に発生する、CO2を含むガスを購入して使った。これを隣接する実証試験センターのCO2回収設備にパイプラインで送る(下左の写真)。吸収液を使ってCO2を回収し、地下に貯留する井戸までパイプラインで運ぶ。下右の写真は、井戸の注入口に取り付けた装置だ。注入口から液体と気体の中間である超臨界状態にした高圧のCO2を注入すると、地下にある砂状の帯水層に吸い込まれる。

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日本CCS調査が実証事業を進める苫小牧CCS実証試験センター。左は、出光興産の北海道製油所で発生するガスから、CO2を分離して回収する設備。右は回収したCO2を地下に圧入する装置
(写真左:日本CCS調査)

 苫小牧の事業では2本の井戸を使った。1本は深さ1200m、もう1本は深さ3000mに達し、実証センターがある陸から、CO2が溶け込みやすい帯水層をめがけて海底方向に斜めに掘削した。帯水層まで適確に井戸を掘削する高度な技術が、事業の初期コスト削減に必要だ。

 貯留コストの削減のためのもう1つの課題が、貯留後に地層や地域環境への影響を観測するモニタリングの適切な効率化だ。日本CCS調査は、多数の地震センサーなどで井戸を囲み、振動や温度・圧力の変化などを観測している。同社は事業の終了後も、ウェブサイトや、苫小牧市役所に設置した掲示板で、振動などの情報開示を徹底している。

 世界のCCS事業では、CO2の漏出による環境への影響はないとみられ、地震との関係も認められていない。とはいえ、CCS事業は、CO2の漏出や、地層や海への影響、地震との関係の有無などが、地域住民の不安の種になる。そのため、きめ細かな対話と、情報公開が求められる。

 今後はセンサーの高機能化などモニタリングのデバイスや技術の進展による省コスト化が不可欠と言える。

いずれはDACの主流化も

 日本のグリーン成長戦略は「DAC(大気直接回収)」と呼ぶ技術も使う方針を示した。DACは、大気中に低い濃度で含まれる常温常圧のCO2を回収する。工場など高温高圧の排ガスに高濃度で含まれるCO2を回収するよりも、効率を高める工夫が要る。

 DACを商用展開しているのがスイスのクライムワークスだ。アミンなどCO2を吸収・吸着する材料を使って排ガスとCO2を分離させる独自の膜を開発。廃棄物焼却場の廃熱を使い、大気中のCO2を年間1500t回収している。コストは1t当たり600〜800ドル(約6万6000〜8万8000円)で、長期的に100ドルにする計画だ。同社は回収したCO2の販売もしている。コカ・コーラHBCスイスは炭酸水に利用し、気候変動対策への貢献を消費者にアピールしている。

スイス・クライムワークスのDAC設備
(写真:クライムワークス)
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 いずれ発電所は、再エネや原子力の利用によりCO2排出ゼロに近づく。また工場も、技術革新でCO2排出が減る。そうなれば大規模排出源でのCCSに代わり、大気中のCO2を回収するDACの主流化も考えられる。CCS技術やビジネスの開発を担う企業は、排出源の長期的な脱炭素戦略を踏まえる視点も必要になるだろう。