パリ協定の発効で適応策に取り組む国は増えたが、失敗も少なくない。気候にレジリエントな開発はどうあるべきか、世界各国で模索が続く。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、第6次評価報告書第2作業部会報告書(AR6 WGⅡ)を2022年2月末に公表した。気候変動による影響と、気象の変化や災害などに対応する「適応」策や脆弱性に関する最新の科学的知見がまとめられている。

 報告書の要約(SPM)の冒頭では、「人間の活動によって生じた気候変動は、極端な気象現象の頻度と強度を増しながら、自然と人間に対して、広範囲にわたる悪影響とそれに関連した損失と損害を、自然の気候変動の範囲を超えて引き起こしている」と警告。長期的な視野に立ち、有効な適応策を緩和策(温室効果ガス削減)とともに直ちに実施すべきとのメッセージを発した。

 3700ページにも及ぶ報告書をどう読み解き、企業の気候変動対策にどう活かせばよいのか。14年に発行された第5次評価報告書第2作業部会報告書(AR5 WGⅡ)からの発展を軸に解説する。

「脱炭素化の機運」を反映

 「15年にパリ協定が合意されたことの影響は大きく、気候変動問題に取り組もうという機運が世界で盛り上がった。こうした社会の動きを反映し、1.5℃目標を実現するための緩和策と適応策とを効果的に組み合わせる政策や経済の仕組みに関する検討が進んだ」。こう語るのは、第18章の査読編集者を務めた茨城大学地球・地域環境共創機構の三村信男特命教授だ。

 既に世界170カ国以上が適応策に取り組み始めており、様々な報告がIPCCに上がってきていることが背景にある。

 「自然科学と社会科学との融合」をAR6の特徴として挙げるのは、日本の気候変動の影響・適応研究を主導する国立環境研究所気候変動適応センターの肱岡靖明副センター長である。

 「科学が社会の要請に応えられるようになってきた。AR5ではリスクをどう考えるかという受け身的なスタンスだったが、AR6では気候変動に強い社会にどう移行するかというアクションにまで踏み込んだところが大きな変化だ」(肱岡副センター長)。AR6では、自然科学や経済学の研究者だけでなく、社会科学や先住民など多様なバックグラウンドを持つ研究者が参加するようになり、議論の幅が大きく広がった。

 こうした「変化」を踏まえた上で、WGⅡ報告書のメッセージをどう読み解けばよいのか。大きく4つのポイントを挙げる。

 1つめは、気候変動の影響がかつての予測よりも厳しい状況になっていることだ。すでに適応能力を超えて不可逆な影響が出ている分野や地域がある。例えばアフリカや中南米では既に水不足によって農業が行えず、食料不足のため栄養失調に陥る人々が増えている。ネパールの高山地域では氷河の減少により水源が枯渇し、移住せざるを得ない状況が起きている。

 あるポイントを超えるともうかつての状態には戻れないといったことが、自然生態系の破壊についてはよく指摘されてきたが、人間の生活でも同様の事態が発生している。

「適応の限界」を超える

 2つめは、国際社会が目指すべきは「1.5℃目標」であり、その達成に向けて緩和策と適応策を両輪として進める必要があることだ。

 「気温上昇を1.5℃以下に抑えればどれくらい影響や損害を抑制できるかを明らかにすることが、研究の1つの焦点だった」と三村教授は話す。気温上昇を1.5℃以下に抑制できれば影響や損害を(それ以上に温暖化する場合と比べて)大幅に低減できるが、それでも影響を完全になくすことはできないと結論付けた。

 3つめとして、現在の適応策には問題が多く、ガバナンスの効いた制度や仕組みの必要性が強調された。パリ協定の発効後、進められている取り組みには対症療法的、局所的な「良くない適応(maladaptation)」も多く、衝突や混乱が生じている。