森 史也/みずほリサーチ & テクノロジーズ 環境エネルギー第2部 コンサルタント

企業の50年実質ゼロ宣言が続くが、多種多様な独自目標が乱立している。SBTが開発しているネットゼロ基準は、企業の目標に影響を与えそうだ。

 多くの企業が2050年に「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」といった温室効果ガス排出量の実質ゼロを宣言するようになった。しかしどの企業も「ゼロ」を目指すことは共通しているものの、対象範囲や達成手段などは、各社が独自の考えで設定しているのが実情だ。

 そんななか、パリ協定の目標に整合する「科学に基づく削減目標(SBT)」を企業に求めるSBTイニシアチブが、ネットゼロ目標を設定する際のルール開発を進めている。SBTは、企業による中長期の目標設定に関して、世界でも強い影響力を持つ。その新ルールは、乱立するネットゼロ目標にどのような影響を及ぼすだろうか。

SBTイニシアチブが2021年1月に発表したネットゼロ基準案(左)と、開催したウェビナーの資料(右)。今回の記事はこの基準案を基に執筆した
(図:SBTイニシアチブ)

企業の「ネットゼロ」乱立

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、ネットゼロを「人為起源の排出量と、人為的な除去量のつり合いが取れた状態」と定義した。カーボンニュートラルはネットゼロに近い言葉だ。これらの違いを定義する動きはあるものの、この記事ではネットゼロという表記で統一する。

 企業のネットゼロ目標を構成する要素は大きく5つある。(1)目標の対象年と(2)対象範囲、(3)削減水準、(4)削減経路、(5)排出量を実質ゼロにする手段─である。

 例えば(2)は、削減の対象を「スコープ1」と「スコープ2」という自社の活動からの温室効果ガス排出量にとどめるか、「スコープ3」と呼ぶサプライチェーン全体からの排出まで含めるかといったことだ。

 スコープ1は自社施設での燃料消費による温室効果ガスの排出、スコープ2は購入した電力や熱の利用による排出を指す。スコープ3は、調達した製品が製造された時や、販売した製品が使用される時の排出などを含む。

 また(5)については、後述する「カーボンオフセット」と呼ぶ手法を使うか、「除去量」を用いるか、「削減貢献量」を用いるかなど、様々な手段が考えられる。

 ネットゼロはゴールが分かりやすく、国の目標とも整合した野心的な目標であることから、企業による気候変動対策の強力なアピール手段になり得る。一方、目標を構成する(1)〜(5)の要素について、企業間で統一されたルールがなく、多種多様なネットゼロ目標が併存するのが実情だ。

 現状では、企業間の差異は大きな問題となっていない。だが今後、ネットゼロ宣言企業が増えるにしたがい、他社の宣言と差別化したい企業や、企業の気候変動対策を評価する投資家などから、企業間の差異に注目が集まるだろう。

ネットゼロ乱立に歯止め

 21年4月中旬までに世界で1300社以上、日本でも100社以上が、従来のSBT認定目標を設定している。中長期目標を設定する企業にとって、SBTは無視できない「世界標準」とも呼べる影響力を持つ。そのSBTイニシアチブが開発を進めるネットゼロ目標(SBTネットゼロと呼ぶ)は、企業によるネットゼロ目標を大きく変革するものになりそうだ。