補償は、仮想の削減量によるオフセットであるのに対し、ニュートラル化は現実の除去量によるものだ。SBTでは、ニュートラル化は「マイナスの排出量」として利用できる(排出量の引き算に利用できる)が、補償は利用できないと整理した。補償は、ネットゼロ実現に向かう移行期における追加的な取り組みであると位置づけた。

■ SBTネットゼロ達成の経路
■ SBTネットゼロ達成の経路
出所:SBTイニシアチブ「Foundations for Science-Based Net-Zero Target Setting in the Corporate Sector」

 さらに基準案から、企業が留意したいポイントを5つ挙げる。

スコープ3にも野心的な要求

 1つ目は対象範囲だ。SBTネットゼロはスコープ1と2だけでなく、スコープ3も対象になる。独自のネットゼロ宣言をした企業でスコープ3を明確に対象としている例は少ない。SBTネットゼロはより広い範囲で削減を要求している点に注意が必要だ。

 2つ目は総量削減だ。目標年度における総量削減目標の設定が必須であることは既に述べたが、気になる具体的な削減水準は現在、示されていない。

 これはガイダンス(21年7月頃に草案公表予定)に記載される見通しだ。ただし基準案のなかで、1.5℃目標において世界全体で90%削減が必要ならば、企業も90%削減する必要があると例示した。実際には必ずしも90%の総量削減が必要とは言えないが、1つの目安になる可能性がある。

 3つ目は中間目標の設定を求めている点だ。これは通常の、5〜15年先のSBT認定目標を設定すればよい。

 ただし基準案は、通常のSBTより厳しい中間目標を求める案を示した。例えばスコープ3は、通常のSBTならば最低で2℃水準の総量削減(年率1.23%削減)が必要だが、基準案は、最低でも「2℃を十分に下回る(WB2D)」水準の総量削減(年率2.5%削減)の中間目標を求める内容が示された。

 SBTは例年4月頃、基準を改定しているが、SBTネットゼロの中間目標案を踏まえると、これまでのSBT基準も、より厳しい削減を求めるように改定するかもしれない。

 4つ目はニュートラル化だ。炭素除去によるニュートラル化もスコープ1、2、3の範囲で目標設定が必要になる。ただしSBTはスコープ 1、2、3における除去量の算定方法を定義しておらず、別のイニシアチブである「GHGプロトコル」に従うという。

 GHGプロトコルは19年、「土地分野と除去イニシアチブ」というプロジェクトを立ち上げ、土地利用や炭素除去、バイオエネルギーといった既存の基準やガイダンスでカバーしきれていない要素の算定・報告方法の検討を進めている。この完成は22年を予定している。

 さらにSBTイニシアチブは、炭素除去の品質条件を独自に定義しており、条件を満たすものだけがニュートラル化に利用できる。例えば、炭素除去の永続性の確保や、除去の価値をクレジット取得者とプロジェクト実施者が主張する「二重主張」の排除、社会や環境への悪影響を及ぼさないなどの条件である。