企業が独自に品質条件を担保することは難しいと考えられるため、品質条件を満たしたクレジットを利用することが現実的だろう。ただしSBTは具体的に適格なクレジット制度や方法論を指定していない。炭素除去はまだ不確定要素が多く、SBTやGHGプロトコルが今後どのように整理するのか、注目したい。

 5つ目は補償である。先述したように、補償はマイナスの排出量としては扱うことができない。あくまで、ネットゼロへの移行における削減戦略の幅と効果を高めることが目的だ。具体的手段には質の高い炭素クレジットの購入、プロジェクトへの直接的な資金援助などの緩和措置を挙げている。

 なお、クレジットと並んで削減貢献量も削減を定量化する概念だが、基準案では削減貢献量を補償の具体例に挙げていない。補償にも品質条件が定められたが、企業が自己宣言する削減貢献量の利用で、例えば削減量の二重主張の排除などを担保することは難しいだろう。

■ SBTネットゼロ基準案
■ SBTネットゼロ基準案
出所:SBTイニシアチブ「Net-Zero Criteria Draft for Public Consultation」に基づきみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

問われる「SBTかどうか」

 SBTネットゼロの要求は、企業独自の宣言と比べて野心的で、一線を画す内容だ。独自のネットゼロ目標が乱立するなか、SBTの要求に合う目標なのか、要求を満たせない目標なのかという「序列」が付けられ、企業の気候変動対策に関する評価にも影響しそうだ。

 近ごろは投資家などから企業に対し、ネットゼロ目標の設定が要請されている。例えば、世界の有力アセットオーナーが参加する「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」や、有力アセットマネジャーが参加する「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ」など、投融資先にネットゼロを促す団体が登場している。

 企業は他社と差別化をするためにも、SBTに適合しない独自目標にとどめておくよりも、SBTの「お墨付き」を得たいと考えるだろう。

 しかし、SBTネットゼロの要求水準は野心的であり、実際に企業が付いていけるかどうかは未知数だ。SBTの要求が、基準案が示す通り野心的なものになるか、企業の実現可能性を踏まえた水準に落ち着くかは、最終的な基準やガイダンスを待つ必要がある。特に、スコープ3の削減に対する要求水準や、除去クレジットの品質をどこまで求めるかについては注視したい。

■ SBTネットゼロの要求水準はどこに落ち着くか
■ SBTネットゼロの要求水準はどこに落ち着くか
出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

 いずれにしても、ネットゼロを既に宣言した企業も、現在検討中の企業も、SBTネットゼロ基準は無視できない影響力を持つことは間違いないだろう。