長谷川 知子/立命館大学 理工学部 准教授

2025年までに世界排出量をピークアウトしなければ1.5℃目標の達成は困難になる。全てのセクターが排出削減戦略を議論し、早期に対策を実施する必要がある。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2022年4月に第3作業部会(WGⅢ)の第6次評価報告書(AR6)を公表した。筆者はこの報告書の第3章の代表執筆者(LA)を務めた。AR6の最大の特徴は、パリ協定で約束された1.5℃目標や2℃目標を達成するためのシナリオが多く盛り込まれ、多様で具体的な戦略が示されたことである。

 本報告書の作成プロセスは、新型コロナ感染症によるパンデミックとも重なり、IPCC初のバーチャル会合が開催されるなど、オンライン中心に進められた。世界中から参加者が集まるバーチャル会合では、日本は夕方から夜中にかけてのタイムゾーンになる。日本の執筆者らは、日中の業務と深夜の会合という二重生活を送ることもあった。国によってはロックダウンなどとも重なりコミュニケーションや議論に加え、一時的には通常の業務や日常を送ることさえも困難な状況ではあったが、議長らのリーダーシップの下、執筆者らの創意工夫と努力によって今回の報告書が生み出された。

25年のピークアウトが必要

 報告書の冒頭、人間活動による温室効果ガス排出量は2010~19年継続的に増加し、10年代の増加率は00年代よりも低下したものの、10年代の平均的な排出量は過去最大となったことが示された。排出削減すべきところ継続して増加していることから、パリ協定で約束された1.5℃目標を達成する経路上に乗っていないことが明らかになった。

 本報告書の政府決定者向け要約(SPM)にはいくつかのメッセージが含まれており、ここで重要なものを取り上げる。

 まず1つ目は、全部門において早期に野心的な削減を実施しないと1.5℃を達成できないことだ。世界中の温暖化シナリオ研究グループらが計算した、2050年までの温室効果ガス排出シナリオを示す(下の図)。横軸に時間、縦軸に世界の温室効果ガス排出量を取り、グラフの帯状の線(レンジ)は異なるモデルによる不確実性の幅を示す。

■ 2050年までの世界の温室効果ガス排出シナリオ
■ 2050年までの世界の温室効果ガス排出シナリオ
実施済みの政策(赤)、2030年のNDC達成(紫)をベースにした排出シナリオと、2℃目標(緑)および1.5℃目標(青)の気温上昇レベルに応じた排出シナリオ。1.5℃目標を達成するには25年までに排出量をピークアウトし、30年までに19年比で4割削減することが必要
(出所:IPCC AR6 WGⅢ Figure SPM.4)