トヨタ自動車は社会への貢献を金額で示し、株主総会で報告した。業績が低迷する企業の経営者は、復活のキーワードにESGを掲げる。

 「株主総会直前に株価が初めて1万円を超えた。豊田章男社長が就任してから12年間の総括をしてほしい」。2021年6月16日のトヨタ自動車の株主総会。株主との質疑応答で最初に質問に立った株主が、興奮気味に声を上げた。

 壇上に立つ豊田社長が真っ先に口にしたのは、取引先、従業員、地域社会をはじめとするステークホルダーに対する貢献だった。貢献量を具体的な数値で示しながら、株主に語り始めた。

仕入先への対価230兆円

 「トヨタだけが一人勝ちしているという声も聞かれたが、そうではない。12年間の売り上げ総額は約300兆円。自動車の約7割が部品なので、仕入先に230兆円の対価を支払ったことになる」と話し、自動車産業への貢献を金額で示した。

 続けて従業員について。「12年間でトヨタの連結従業員は5万人増加した。世帯年収を500万円とすると、2500億円が家計に回った。その一方で、経営陣の給料は20年と比べて3%下げた」と語った。

 国や自治体といった地域社会もステークホルダーの1つだ。納税額は約7兆円と公表した。

 そして株主について。「時価総額は33兆円となり、12年間で約20兆円増加した。21年は配当金を増額する。日本で一番大きな会社はどういうものか。株主の皆さんにもご理解いただき、今後もご支援いただきたい」と語り、会場の出席株主から拍手が沸き起こった。

左:トヨタ自動車の株主総会は、コロナ禍における社会や地域への貢献がテーマとなった(写真:トヨタ自動車)
右:トヨタ自動車 社長 豊田 章男氏
「社長就任後12年間の売り上げは300兆円。そのうち部品会社への対価は230兆円。5万人の従業員を増やし、2500億円が家計に回った」(写真:トヨタ自動車(2020年11月の決算発表会))
日本電産 会長 永守 重信氏
「私の役割は人づくりだ。人材投資によって業績が上がり、株価が上がるのが理想。もちろん業績向上が前提だ」(写真:株主総会後の記者会見)

 コロナ禍で問われた企業の社会的意義。21年はその成果を報告する総会となった。20年、他社が実績見込みの公表を見送る中、営業利益5000億円という目標を掲げ、仕入れ先や従業員の雇用維持に努めた。結果、この目標は20年第2四半期で達成。21年3月期の純利益は前年比10.3%増の2兆2452億円と2兆円の大台を突破した。社会に貢献するという企業姿勢が業績を牽引した。

 社会面の取り組みの中で人的資本への投資を強化しているのが日本電産だ。20年10月には、従業員の賃金を今後3年間で30%引き上げる計画を明らかにした。生産性向上や原価低減などで確保した利益の一部を従業員に還元する。21年6月22日の株主総会では、経営陣の業績連動報酬の会社提案を可決した。これも、経営者を目指したいと考える意欲ある人材を育てる狙いがある。

 創業者の永守重信氏は21年、長年務めた社長職からの退任を発表した。永守氏は会長に退き、関潤氏が社長を引き継ぐ。総会後の会見で永守氏は、今後の自身の役割について、「人づくりが大事。社員教育に時間を費やしていきたい」と語った。海外で加速するステークホルダー主義については、「業績の源泉は従業員に他ならない。評価や報酬の制度を整備し、人材投資が業績と株価につながるのが理想だ」と答えた。

 日本電産の21年3月期の売上高は前年同期比5.4%増の1兆6180億円で、9期連続で過去最高を更新した。21年も配当額を増やし、増配は8期連続となった。

オムロン 社長CEO 山田 義仁氏
「社長就任以来、一貫して強い企業を目指してきた。しかし、企業が強くなることだけが目的ではない。社会発展への貢献が使命。主役は社員だ」(写真:オムロン)

 オムロンは、11年に策定した10年間の中期経営計画を終えた区切りの年となった。21年6月24日の株主総会で、山田義仁社長CEOが10年間の成果を報告した。

 11年3月末に2338円だった株価は、21年3月末に8640円と、10年間で約4倍になった。28円だった年間配当額は84円になった。山田社長は、「社長就任以来、一貫して強い企業を目指してきた。しかし、企業が強くなることだけが目的ではない。社会発展への貢献が使命であり、主役は社員だ」と訴えた。

 株主からの質問も「女性活躍の取り組み進んでいるか」「高齢化社会に向けての戦略は」といった社会面の質問が相次いだ。女性活躍についてグローバル人財総務本部長の冨田雅彦氏は、「女性管理職の割合は現在7%で、5年前の倍となった」と答え、山田社長が「グローバル水準の30%に近付けていく」と語った。

 これらの企業のESGの取り組みが株主に受け入れられているのは、業績や株価が好調で、株主にも増配で報いているからだ。株主総会では、株主還元とESGが対立軸にあるケースも多い。株主から納得を得た上でのESG経営の推進は、足元の業績が求められる。