IT大手に公益法人を迫る

 米国の主要企業が名を連ねるロビー団体ビジネス・ラウンドテーブルは19年8月、株価上昇や配当増など投資家利益を優先する「株主第一主義」を批判し、従業員や地域社会などの利益を尊重する「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言した。この流れを受けて、21年の株主総会では、企業に対して公益法人(パブリック・ベネフィット・コーポレーション:PBC)への移行を求める提案が相次いだ。

 公益法人は株式会社の形態のまま、株主利益の追求のみならず、従業員や顧客、地域社会や環境などの公益(パブリック・ベネフィット)を考慮して事業活動を行う。

 米国では、10年にメリーランド州で法制化されて以降、各州に広がり、既に数千社の公益法人がある。例えばアウトドアウエアの米パタゴニアは公益法人で、オーガニックコットンの使用や環境への影響の追跡と公表、縫製を担当する全従業員の労働条件と賃金規定、売り上げの1%を環境保護のグループに寄付するといった取り組みを行っている。

 公益法人への移行には株主の承認が必要なため、公益法人化した上場企業はまだ少ないが、ESGを企業経営と事業目的の根幹に据える新しい企業形態として注目されている。

 PBCへの移行を求める株主提案があったのは、SNS最大手の米フェイスブックや米グーグルの親会社の米アルファベット、顧客管理ソリューションの米セールスフォース・ドットコムのような、巨大なシェアを握り、消費者の生活や企業活動の基盤となって影響の大きいITプラットフォーム企業などだ。

公益か株主か、揺れる世界

 このように米国では、環境、従業員、取引先などのステークホルダーに配慮する「公益重視」の動きが加速している。しかし、公益の追求と株主利益の追求は、本当に並存できるのか、手探りの状況だ。

 ESG経営の優等生と言われてきたフランスの食品大手ダノンは21年3月15日、エマニュエル・ファベール会長兼CEOの解任を発表した。

仏ダノンのエマニュエル・ファベール前会長兼CEO。パーパス経営を進めてきたが、米英の投資会社などの株主から本業の不振の責任を問われて解任された<br><span class="fontSizeS">(写真:Nicolas Kovarik/IP3/Getty Images)</span>
仏ダノンのエマニュエル・ファベール前会長兼CEO。パーパス経営を進めてきたが、米英の投資会社などの株主から本業の不振の責任を問われて解任された
(写真:Nicolas Kovarik/IP3/Getty Images)

 同社は20年の株主総会で、株主価値の持続的向上と環境・社会課題解決の両立を定款に明記することを提起し、99%以上の賛成で可決した。19年の決算から自社とサプライチェーンが排出する温室効果ガスの費用を1t当たり35ユーロで計算し、それを差し引いた「カーボン調整後1株利益(EPS)」を開示するなど、温暖化対策に積極的に取り組んできた。

 だが、ESG経営を進める代表的な経営者の1人として知られたファベール氏は、米英の投資会社などの株主から本業の不振の責任を問われて解任されてしまった。

 温暖化対策などESGへの取り組みが、株価低迷や業績不振の免罪符になるわけではない。ステークホルダー資本主義を標榜して「公益にも配慮する良い企業になる」ことと、「企業として株主の利益を追求する」ことを両立する、難しいかじ取りが経営者に求められている。