ただ、そういった信頼性の高い排出量の情報を計算・報告できる企業は、世界的に見ても現在は非財務情報の開示に取り組む大手企業が中心となっている。排出量を計算・報告していない投融資先の場合は、その企業の活動や財務情報を基に推計した値を使わざるを得ない。

 こうした事情を踏まえ、PCAFは(1)企業が報告する排出量、(2)活動指標に基づく推定値、(3)財務指標に基づく推定値の3種類の計測手法を示した。また、それぞれの手法で求められる排出量の「データの質」を、5段階に分類した(下の表)。最もデータの質が高い「スコア1」の排出量は、企業が実測し、第三者機関が認証した排出量である。

■ PCAFスタンダードが示す「データの質のスコア」と投融資スコープ3排出量の計測手法
■ PCAFスタンダードが示す「データの質のスコア」と投融資スコープ3排出量の計測手法
株式投資、融資・債券投資の例。金融機関は質の高いデータによる計測・報告を行った上で、投融資額で加重平均したデータの質のスコアについても報告する必要がある
(出所:PCAF「グローバル温室効果ガス計測・報告スタンダード」を参考に著者作成)

 金融機関は、質の高いデータを利用するように努める一方、そのようなデータが報告されておらず利用できない企業については、推定に基づく温室効果ガス排出量を利用することで、全資産の投融資スコープ3排出量を報告できる。

運輸や産業、24年から報告へ

 PCAFスタンダードを採用する金融機関は、全ての業種の投融資先企業のスコープ1とスコープ2の排出量を計測・報告する必要がある。

 一方、投融資先企業のスコープ3排出量は、一部の業種から段階的に計測・報告の対象を拡大することが求められる。PCAFは、EUの気候ベンチマークの報告基準を参照し、エネルギー(石油・ガス)と採掘業は21年から、運輸、建設、建築、素材、産業は24年から、その他の業種は26年から、投融資先企業のスコープ3排出量も計測・報告の対象となると言及している。

TCFDが開示を求める

 投融資スコープ3排出の計測・報告スタンダードとして、後述する「SBTイニシアチブ」のガイダンスの他、いくつかの国際イニシアチブがPCAFスタンダードを参照している。

 特に影響力が大きいと思われるのが、21年6~7月にパブリックコンサルテーションが行われた気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による「ガイダンス」の改訂案である。

 改訂案では、具体的な開示項目とメトリクスが設定されることに加え、金融業界(銀行、アセットマネージャー、アセットオーナー)に対し、PCAFスタンダードによる投融資スコープ3排出の計測・報告と削減目標の設定・検証を要求している。

 TCFD開示ガイダンスの改訂版は21年秋に公表される予定だ。そこにPCAFスタンダードが掲載されれば、投融資スコープ3排出量の計測・報告の「デファクトスタンダード」として定着していく可能性が高まる。