「製品排出量」に課金

 国境炭素調整の基本的な仕組みはシンプルだが、実際に導入する際には複雑な制度設計が必要となる。表に制度設計の際に検討される主な要素と、要素ごとにどのような設計の選択肢があるかを示したが、欧州委員会のCBAM提案を例に見ていく。

■ 炭素国境調整の制度設計要素と選択肢
■ 炭素国境調整の制度設計要素と選択肢
設計の選択肢のうち、青字は欧州委員会提案の選択、赤字は米国クーンズ議員らの法案の選択、紫字は両者の選択を示す(出所:著者作成)

※ 1 クーンズ議員らの法案では、排出を抑制・削減するための連邦、州、地域、または自治体による法、規制、プログラムが調整対象の政策となっている
※ 2 欧州委員会の提案では、鉄鋼・アルミ・セメント・肥料・電力が対象。クーンズ議員らの法案では、鉄鋼・アルミ・セメント・半分以上がこれらの素材で構成される製品・化石燃料(石油、天然ガス、石炭)が対象
※ 3 ベンチマークとなるのは、欧州委員会の提案では、各輸出国の製品別の平均排出原単位+調整分の上乗せ。ただし、輸出国の信用できるデータが無い場合、EU の下位10% の排出量。クーンズ議員らの法案では米国の下位1% の排出量
※ 4 クーンズ議員らの法案では、米国の連邦法・規制と同程度以上に野心的な法・規制を執行する国からの輸入品には炭素コストを課さないとされている
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 まず、輸入品のみを調整対象とし、EUからの輸出品に対する炭素価格分の還付は行わない(表の①)。欧州委員会はその理由を明らかにしていないが、世界貿易機関(WTO)の下での自由貿易のルールに配慮したものと思われる。炭素国境調整は政策的に貿易に介入するものであり、自由貿易のルールとは両立しにくいが、WTOは環境目的などのための例外規定を定めている。ただ、この例外を用いて炭素国境調整を行う場合には、輸出への還付は行いにくいと言われている。域内の各種政策のうち、炭素価格を明示的に発生させているEU排出量取引制度(EU ETS)のみを国境で調整する(②)。その際、原則として、全ての国から輸入品を対象とするが、EU ETSに連結している国などを対象外とする例外もある(③)。

 調整対象となる製品は、当面は、鉄鋼、アルミ、セメント、肥料、電力のみである。炭素リーケージを防止するためには、全ての製品を対象とすることが望ましいが、自動車などの複雑な製品になると、原材料や部品に付随する炭素排出量の把握が難しい。そのため、排出量計算が容易で、生産コストに占める炭素コストの割合が高い素材・電力などに対象を限定している(④)。

 製品を生産する際の排出量のうち、直接排出(スコープ1)のみを国境での炭素コスト賦課の対象とし、電力などのエネルギー購入に付随する間接排出(スコープ2)は対象外とする(⑤)。排出量は通常、工場単位で集計されるが、国境を越えるのは製品であり、工場の排出量を通関する各製品に配分した数字(製品排出量)が必要となる。複数の計算方法が考えられるが、欧州委員会はどの方法を採るかを示していない(⑥)。

 製品排出量を適切に把握できない輸入品に対しては、輸出国の製品別の平均排出量に一定の調整値を上乗せした値を用いる。輸出国平均の信用できるデータもない場合、EUの同製品の生産者による排出量のうち下位10%の値を用いる(⑦)。炭素効率が非常に悪い下位10%の値となれば、輸入者の負担は大きくなる。

 製品輸入者は「製品排出量×炭素価格」のコストを負うことになるが、その際の炭素価格は、基本的にはEU ETSの排出枠価格である。

 具体的には、輸入者はEUが発行する「CBAM証書」を購入し、製品排出量に相当する量の証書を当局に納付する義務を負う。証書の価格は、排出枠のオークション価格に連動するようになっている。その際、製品に対して輸出国側で課せられた炭素価格分を、CBAM証書の納付量から差し引くことができるが、対象となる価格は、排出に対する税と排出量取引制度の価格に限られる(⑧)。EUにはCBAM証書の販売収入が生じるが、EUの独自財源として用いられる(⑨)。