上野 貴弘/電力中央研究所 上席研究員

2020年11月に迫る米大統領選挙。2人の立候補者は真逆の環境政策を掲げる。気候変動・エネルギーに関する両者の政策方針を読み解く。

 米国大統領選挙まで残り1カ月を切った。執筆時点において、民主党のジョー・バイデン前副大統領が優勢との世論調査結果が大半だが、4年前の選挙を想起すれば、状況はいまだ流動的と思われる。

 近年、気候変動対策は、党派間の対立が激しい政策分野となっており、今回の選挙結果は今後4年間の米国の気候変動対策を大きく左右する。ドナルド・トランプ大統領は就任直後の17年6月にパリ協定からの脱退意向を表明したが、バイデン氏は、当選すれば21年1月20日の就任当日に協定に復帰すると公約しており、両者の態度は正反対である。

 トランプ氏が再選する場合とバイデン氏が当選する場合で、気候変動対策はどのようになるのだろうか。

トランプ再選なら現状継続

 トランプ氏再選の場合、トランプ政権が1期目に進めたことの延長となる。トランプ氏は就任直後の17年3月に「エネルギー独立と経済成長の促進に関する大統領令」に署名し、国産の化石燃料(石油、天然ガス、石炭)を促進すべく、オバマ政権が策定した各種の排出規制を撤回する方針を定めた。

 オバマ政権は既存法の下での行政権限を駆使して、火力発電所、自動車、油田・天然ガス田といった部門ごとに排出規制を導入してきたが、トランプ政権は同じ権限を用いて、これらを解体し、より緩い内容の規制に置き換えてきた。見直しに3年以上を要した規制もあったが、主要な規制は20年8月までに撤回と代替規制への置き換えが完了した。

 他方、強い規制を望む州や環境団体などが環境保護庁などの規制撤回を担った省庁を提訴している。その訴訟の大半は1期目が終了する21年1月20日までには完了しない見込みであり、トランプ政権の規制緩和に対する司法判断は2期目に持ち越されることになる。

 裁判所に認められなければ、トランプ政権は判決に沿った対応を取らなければならない。だが、主要な訴訟について最終的な判断を下す連邦最高裁は、トランプ氏による判事指名によって保守化する傾向にあり、その影響が及ぶかどうかが注目される。

 1期目に温室効果ガス排出規制の大半を緩和したことから、2期目に残されていることは少ないものの、トランプ氏は20年8月の共和党大会における指名受諾演説で「我々はエネルギー開発を大幅に拡大し、世界一であり続け、米国のエネルギー独立を維持する」と主張した。国産化石燃料の生産拡大を後押しする施策を継続していくものと見込まれる。

 そのようななか、9月8日に選挙戦を見据えたサプライズがあった。トランプ氏は激戦州の1つであるフロリダ州を訪問し、フロリダ州などの沿岸における沖合油田・天然ガス田開発を一時的に禁止する覚書に署名したのである。国産化石燃料の推進という方針とは正反対の内容だが、フロリダ州では観光業や自然保護の観点から、党派を問わず、沖合油田・ガス田の開発への反対が根強く、選挙の勝敗を左右する同州有権者の支持拡大を狙ったものと思われる。

トランプ大統領はフロリダで沖合油田・天然ガス田開発を一時的に禁止する覚書に署名した
(写真:Joe Raedle/Getty Images)