新規立法は、連邦議会の上下両院で法案を通過させたのちに、大統領が署名することで成立するが、まずは大統領選挙と同時に行われる議会選挙で、民主党が下院の多数派を維持し、上院でも多数派を奪取して両院の議事進行を握る必要がある。

 その上で、上院では重要法案の本会議可決に定数100のうちの60票以上の賛成が必要になるが、民主党がこの議席数を確保するのは実質不可能である。共和党の一部議員の切り崩しが必要となるが、公約通りの大胆な政策構想を支持する共和党議員はほとんどいないだろう。

 しかし、60票ルールは過半数の賛成で引き下げが可能である。60票ルールは新規立法の障壁である一方、一度成立した法律の頻繁な改廃を抑止しつつ、超党派での立法を促す仕掛けにもなっており、法制度の安定に寄与してきた。そのため、これまでルール変更は支持されてこなかったが、最近、民主党議員の一部から、気候変動などの新規立法のために、60票から51票に引き下げるべきとの意見が広がってきている。 また、一定の要件を満たす予算関連の法案の場合、「財政調整」という特別な手続きを用いれば、過半数の51票で可決できる。脱炭素関係の政府支出はこの方法で実現できる可能性があるが、新規制・基準の導入はこの手続きの対象外だ。17年12月に成立したいわゆるトランプ減税も、この方法で上院を通過した(写真)。

2017年12月、トランプ減税が上院本会議を通過したときの様子(米国上院ウェブサイトの動画を撮影)。通常、可決には60票が必要だが、財政調整というルールを用いて51票で可決した。バイデン氏の公約を51票で可決できるかが注目される

はっきりしない2030年目標

 実は、バイデン氏はパリ協定の下で掲げる30年目標に触れていない。その理由は明確には述べられていないが、国内政策の実現が不透明であることから、政策に裏付けされた目標を提示しにくいのではないかと推測される。協定の規定上、米国は復帰時に国別の削減目標を提示しなければならないが、就任直後に最終的な30年目標を提出するのは困難である。そこで、暫定的な目標を提示しつつ、21年11月の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)までに国内政策を検討し、それを反映した目標を掲げるのではないかと予想される。

バイデンなら他国に圧力も

 このように、どちらの候補が勝つかによって、米国の気候変動対策は全く異なるものになる。

 バイデン政権が発足する場合、政策は転換するが、公約の実現に向けたハードルは高い。バイデン氏は主要排出国に対して、削減目標の深掘りを求めると公約しているが、米国自身の国内政策が定まらなければ、世界をリードするのは難しくなる。

 他方、大統領、上院、下院のいずれも民主党が握って上院の60票ルールを回避できれば、公約の実現にかなり近づき、日本を含む他国には、気候変動対策を強化すべきとの強い圧力がかかる。

 もちろん、トランプ氏が再選されれば、真逆の状況となる。今回の選挙結果は、世界の脱炭素化に向けた大きな分かれ道となる。