聞き手/深尾典男(日経エコロジー編集長・当時)
写真/室川イサオ
編集/日経ESG編集部

スウェーデン王立科学アカデミーは10月5日、2021年のノーベル物理学賞を米プリンストン大学の真鍋淑郎・上席研究員らに授与することを発表した。日本から米国に渡った気象学者の真鍋氏は、大気の振る舞いをコンピューター上で再現する気候モデルを開発し、CO2が倍増すると 約3.5℃気温が上がると試算した。「日経ESG」の前身となる「日経エコロジー」は数回にわたり真鍋氏に取材している。ここでは2000年に実施した、3800字に及ぶ日経エコロジー単独インタビューを紹介する。(肩書きなど2000年当時の記述をそのまま掲載する)

真鍋 淑郎(まなべ しゅくろう)氏
真鍋 淑郎(まなべ しゅくろう)氏
1931 年 9 月 21 日生まれ。58 年に東京大学大学院博士課程を修了後、米国で気象研究に携わる。米環境科学局地球流体力学研究室上席気象研究員、米国海洋大気庁(NOAA)地球流体力学研究室上席気象研究員などを歴任。97~2001年、海洋科学技術センター(現在の国立研究開発法人海洋研究開発機構・JAMSTEC)地球フロンティア研究システムで地球温暖化予測研究領域長を務める。現在は米プリンストン大学上席研究員、JAMSTECフェロー

米国では、地球温暖化現象そのものに対する疑念があったと思いますが?

真鍋 温暖化が起こっていることについては、米国でも議論の余地はありません。現在の気温の上昇は、世界的な観測結果から明らかです。過去600年くらいの地表面の温度変化を分析すると、1900年ころから急速に上昇しているのがわかります。これまでに0.7℃くらい気温が上がっているでしょうか。この100年間のような温度上昇は一度もありませんでした。温暖化が起こっているということについては、否定する見解は米国でもほとんど姿を消しつつあります。

CO2など温室効果ガスとの因果関係も認められつつあるのでしょうか。

真鍋 地球温暖化とCO2などの温室効果ガスとの関連もほぼ間違いありません。CO2をはじめとする温室効果ガスは大気中には0.1%もない微量成分なんです。ところが、この温室効果ガスがなかったら、地球の平均気温は零下17℃くらいになるといわれています。いまの平均気温が15℃くらいですから、温室効果ガスが30℃以上気温を引き上げています。それくらい効果が大きい。

 大陸の氷床に閉じ込められた気泡などから分析すると、CO2はだいたい1800年くらいから増えていることがわかります。産業革命の時期と一致しています。気温上昇との間には時間差がありますが、これは気温がCO2の濃度に単純に比例するわけではないためです。身近なところで、東京都の場合は、100年前と比べて気温が3℃ほど上がっていると思いますが、そのうちの半分以上は都市化が原因だと思います。外国の町に比べると、はるかに緑が少ないですし、アスファルトですっかり固められていますから。

21世紀後半には気温が2℃以上上昇、局地的には7℃以上上がるケースも

これまでの研究で、温暖化は今後、どんな形で進むと考えられますか。

真鍋 中生代、恐竜が生きていたころですが、この時代は、いまと比べてずっと気温が高かったと考えられています。理由は、やはり大気中のCO2が多かったことにあります。そのころは大陸移動が速かったために、風化作用によって石灰岩に取り込まれていたCO2が、火山活動によって再び大気中に出てくるわけです。そのためにCO2濃度が高かった。それが2000万年くらい前になって、大陸移動のスピードが落ちたんですね。同時に風化作用のスピードが上がり、大気中のCO2が減少した。いまは、地球の長い歴史からいうと、寒い時期にいるわけです。ところが人間の活動で、CO2濃度が急激に増加している。われわれのシミュレーションでは、21世紀の後半には、海洋の気温でほぼ2~3℃上昇すると見ています。ところが陸域では3~5℃も上昇する。北極海ではさらに高く、7℃近く上がる。そうすると北極海の氷は、いまの6割くらいになるだろうといわれています。今後300年くらいで地球の平均気温は8℃、北極海周辺では16℃も上がるのではないかというシミュレーション結果もあります。