ECSの推定は、40年以上前から試みられているが、「1.5℃から4.5℃の間である可能性が高い」といわれたまま、いくら研究が進んでもその推定幅がほとんど狭まらなかった。温暖化を増幅する効果も抑制する効果も持つ「雲」の変化の理解が難しかったり、異なる方法で見積もられたECSが異なる範囲を示したりしたせいだ。それが今回は、これまで3℃あった幅(1.5‒4.5℃)を一気に半分の1.5℃(2.5‒4℃)まで狭めることに成功したのだ。

■ 40年以上前から平衡気候感度の評価が試みられてきた
■ 40年以上前から平衡気候感度の評価が試みられてきた
平衡気候感度(ECS)は、地球の気温の上がりやすさを表す基本的な指標。AR6では、様々な研究成果を組み合わせることで、ECSの推定を「2.5℃から4℃の可能性が高く(66%以上の可能性)、最良の推定値は3℃」と結論した
(出所:IPCC AR6 WGⅠ Figure TS.16)

 ここでも複数の証拠に基づく総合的な評価が注意深く行われた。雲などの物理プロセスの理解、近年の気温上昇に基づく推定、古気候(約2万年前の最終氷期など)の証拠からの推定、といった結果を組み合わせて、可能性の高い範囲を絞り込んだ。「シミュレーションモデルが不確かなので温暖化の予測は信用できない」という批判をよく聞くが、今回はモデルの結果をそのまま使用してはいない。

 ECSの推定精度が上がったことは、政策的に重要な意味を持っている。これまでは「もしもECSが1.5℃と低かったらあまり温暖化しないのだから、無理して排出削減をしても無駄になるリスクがあるのではないか」という論理で、温暖化対策を遅らせるような主張が可能であった。しかし、ECSの推定幅の下限が引き上げられたことで、そのような主張にこそリスクが大きいことが明瞭になった。

極端現象が増える

 近年、世界各地で深刻化の認識が高まっている熱波、大雨、干ばつ、森林火災、強い台風などの極端現象(extreme events)についても、人間活動の影響がより明確になった。ちなみに、日本で「異常気象」と呼ぶのは30年に1度よりも稀なものという定義があるが、「極端現象」は頻度を指定せずに稀に起きる極端な事象を指すと思っていただければよい。

 熱波は高気圧が停滞したときに起きやすく、大雨は強い低気圧や前線の通過や停滞に伴って起きるなど、極端現象は特定の気圧パターンに伴って起き、その発生は非常に不規則である。しかし、近年はそこに温暖化の長期的傾向が重なっている。すると、熱波の気圧パターンが生じたとき、近年は平均的な気温上昇分だけ昔よりも余計に高温になるし、大雨の気圧パターンが生じれば、気温上昇により大気中の水蒸気量が増えている分だけ余計に雨が降る。これが、温暖化により極端現象の頻度と強度が増す基本的な理由である。なお、気圧パターンの生じ方自体も温暖化により変調すると考えられるがまだはっきりしない部分が多い。

 過去の観測データによれば、極端な高温は世界のほとんどの地域で増加しており、人間活動が主な原因であることの確信度が高い。大雨についても多くの地域で増加しており、人間活動が主な原因である可能性が高いとしている。

 個々のイベントで見ても、仮に人間活動による温暖化が無かった場合と現実に温暖化がある場合のシミュレーションを多数回行って比較する「イベント・アトリビューション」という研究が進んだ。18年に日本を襲った西日本豪雨のような大雨は、温暖化によって約3倍起きやすくなっており、引き続き起こった同年の猛暑は、温暖化が無ければほとんど起こり得なかったレベルの暑さと評価された。同様な事例が世界中から報告されている。