杉山 俊幸/日経BP総合研究所 主席研究員

経済と安全保障の“距離”が近づき、ESGの在り方もそれと無縁ではいられない。トランプ、プーチン両氏と立て続けに面会した男は、極東有事そしてサプライチェーンの課題をどう見ているのか。

 ロシアのウクライナ侵攻は地政学リスクを浮き彫りにし、持続的社会の重要性をいっそう際立たせた。経済安全保障やサステナビリティへの対応は、ときに企業の利潤と相容れないように映る時がある。どう整理しておけばいいのか。野田政権、安倍政権、菅政権の3代にわたり10年ものあいだ総理大臣官邸でインテリジェンス(情報収集・分析)と安全保障を取りしきった人物がいる。北村滋。2021年7月まで国家安全保障局(NSS)局長の職にあった。安全保障の側面から、グローバルなサプライチェーン(供給網)の課題や極東有事について聞いた。

SDGsでは「平和と公正をすべての人に」とうたっていますが、ウクライナの状況を見るまでもなく、こうした目標とはかい離した現実があります。だからこそ安全保障への関心が高まり、経済活動や技術開発との“距離”が急速に縮まっています。

北村 滋 氏(以下、北村) 人工知能(AI)や量子、ブロックチェーンといった先端技術が軍事や産業、そして国家、国民に大きな影響を与えるようになっています。以前はインターネットのように軍事由来の技術が民生に転用されましたが、いまでは逆に民間技術の軍事転用へと産業構造が大きく変わっています。

北村 滋(きたむら・しげる)氏
北村 滋(きたむら・しげる)氏
国家安全保障局(NSS)の前局長。野田政権、安倍政権、菅政権の3代にわたり10年ものあいだ総理大臣官邸でインテリジェンスと安全保障の中枢を取りしきった。岸田文雄総理とは開成高校の同窓
(撮影:村田 和聡)

 中国では国家戦略として「軍民融合」を標榜しています。ウクライナで改めてクローズアップされたドローンの集団による攻撃など民間技術が軍事の最前線で使われるようになってきています。防衛省のある市ヶ谷で“ウサデン”(宇宙、サイバー、電磁波の頭文字を取ったもの)という造語があるほど、技術が戦闘の勝敗を決めるようになってきているのです。

 世界的なサプライチェーンを強靭化するうえでも安全保障は重要です。半導体やレアアース(希土類)を安定的に手に入れるには、調達の多様化や内製化を検討していくべきでしょうね。

 「エコノミック・ステートクラフト」という手法をご存じでしょうか。例えば2010年に尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件を巡って、中国はレアアースの対日輸出を一時止めたことがありました。こうした、経済活動で政治圧力をかけることを言います。このような事態にも対応できるよう、事前に準備する必要があるのです。