消費者庁が「消費者志向経営」を推進している。「消費者」という視点で社会のサステナビリティに取り組む企業を支援する取り組みだ。その内容や狙いは。消費者庁の伊藤明子長官に聞いた。

「消費者志向経営」とは何でしょうか。

伊藤 明子 氏(以下、敬称略) 「消費者と共創・協働して社会価値を向上させる経営」と定義しています。社会課題解決やサステナブルな社会を、「消費者」と一緒に実現する。こうした視点を持った経営のことです。

伊藤 明子氏
消費者庁長官(写真:中島 正之)

 2020年の日本のGDP(国内総生産)は538.7兆円で、そのうち52%の280.3兆円が家計消費です。消費という行為はどのような社会をつくるかにつながっており、消費を通じて良い社会をつくるには、消費者と企業との共創・協働が欠かせません。

 消費者志向経営の柱は、「みんなの声を聴き、かついかすこと」、「未来・次世代のために取り組むこと」、「法令の遵守・コーポレートガバナンスの強化をすること」の3つです。

 現在のような人口が減少し、嗜好が多様化している社会では、消費者の声を拾い上げて経営に生かせるかどうかが、勝敗を分けます。また、消費者は現在だけでなく、未来にも存在します。現在の消費者だけに過剰に適応するのではなく、未来を見据えた活動も求められます。もちろん、これらを実現するための企業のガバナンスも必要です。

 消費者庁というと、悪質事業者と対峙するというイメージが強いかもしれません。消費者と企業は対立する構図ではなく、良い未来をつくるために協力すべき関係だと思います。SDGs目標12は「つくる責任、つかう責任」です。この目標を実現するための企業の取り組みを支援していきたいと考えています。

2021年は「パートナーシップ」に注目

表彰制度を実施しています。どのような企業が参加しているでしょうか。

伊藤 消費者庁では、「自主宣言」の促進と「表彰制度」で企業を支援しています。自主宣言は、消費者志向経営に取り組んでいることを企業に宣言してもらう仕組みです。自主宣言企業は、21年6月時点で210社となり、毎年増えています。

 表彰制度は、優良事例を表彰する取り組みです。18年度から始めて、21年は4回目の実施を予定しています。毎年、優れた取り組みをする企業に対して、内閣府特命担当大臣表彰と消費者庁長官表彰を授与しています。

 19年度に大臣表彰を受賞したのは、徳島で地元に密着して自動車教習所を経営する広沢自動車学校という中小企業です。運転を教えるだけでなく、運転教習を通じて「命を大切にするドライバーを育む」ことを使命に掲げるユニークな経営を実施していて、消費者とのコミュニケーションを重視する地域密着の経営が評価されました。

 20年度は、経営全体を評価する「総合枠」と、新型コロナウイルス対策や地域活性化という特定領域を評価する「特別枠」で参加を募りました。

 総合枠の大臣表彰はライオンです。主力の口腔衛生事業を通して、乳幼児から高齢者まで幅広く健康習慣づくりを働きかける意欲的な取り組みを実施しています。そして総合枠の消費者庁長官賞は日清食品ホールディングスでした。特別枠の消費者庁長官賞は、味の素、アスクル、オイシックス・ラ・大地、城北信用金庫、不二製油グループ本社でした。応募・受賞企業が、金融、小売り、BtoB企業など、幅広い業種、規模の企業に広がっています。

2020年の消費者志向経営優良事例表彰の様子。投影画面左が井上信治・内閣府特命担当大臣で、投影画面右が受賞企業のライオンの濱逸夫会長