石炭からの投資引き揚げ強化

――世界各国で気候変動政策が強化されたり、社会や人々の需要がより低炭素なものに変化したりする移行のリスクに関連する取り組みにも積極的ですね。

ワイマン 移行リスクも注視しています。保険業界は実体経済や、他の様々な企業のビジネスが低炭素化し、発展を加速するのを助ける役割を担います。これは保険業界にとっては機会となります。例えば自動車や再生可能エネルギーなどの新技術に機会が見いだせるでしょう。

 19年9月、ニューヨークで開催された国連の気候行動サミットに参加し、国連が主導する企業による1.5℃宣言にも署名しました。1.5℃目標の実現を目指す機関投資家による「ネットゼロ・アセットオーナー協定」の設立にも参画しています。2050年までにバランスシートの投資と負債の両方のポートフォリオで、温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを約束しています。また、グリーンボンドやソーシャルボンドに対し、2024年までに最小で40億ドルを投じる目標も掲げました。

 この実現に向けて、我々が「石炭方針」と呼ぶ石炭関連資産への投資方針も見直しました。18年7月、石炭火力発電事業や発電燃料向け石炭採掘事業の売り上げが、総売上高の30%以上となる企業に対し保険と再保険の引き受けを原則、制限するか引き受けない方針を発表しました。石油やガスに関する方針も検討中です(注:同社は20年2月に石油やガスでも方針を発表した)。

 また16年から事業の30%で石炭を扱う企業を投資対象から除外していますが、19年にその基準を強化しました。毎年2000万tを超す石炭を生産する採掘会社と、1000万kWを超す石炭火力発電を抱える発電事業者も除外の対象です。

■ スイス・リーによる石炭関連企業に対する主な方針
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――石炭関連事業への再保険を停止したことでどのような変化が起きましたか。

ワイマン 石炭方針は、我が社にとって低炭素経済に備える最良のソリューションです。サステナビリティに関わるリスク管理の枠組みにおいて欠かせないものと捉えています。リスクを負債サイド、投資サイドで最小化するための方策なのです。

 我々は石炭方針を打ち出しましたが、同時に社会におけるエネルギー効率の改善、低炭素技術の開発や導入拡大が重要であると考えています。低炭素社会は、我々の石炭方針だけで築けるわけではありません。ただ、その勢いは増したとみています。世界で石炭火力発電所の規模を今後抑えていく上で、大きなインパクトを与えたのではないでしょうか。

 気候変動問題に取り組むなら石炭への対応は必要です。短期的には石炭が必要な国もありますが、中長期では、他のエネルギーへの転換を促す必要があります。こうした取り組みを今後さらに広げる考えです。投資プロセスにおいてCO2削減に役立つ手法の採用を進めます。

 重要なことは顧客やステークホルダーと協力して解決策を見いだすことです。気候変動の緩和はすべての人に好ましいことですが、石炭産業従事者の雇用維持なども課題です。グリーンな経済を実現するために、社会が変化することが重要です。企業もいち早く変化に取り組むほど、適応しやすくなります。

 我が社は保険会社として顧客や投資家のため、移行リスクの透明性を増すことに取り組みます。社会が低炭素化に向けて変化していくとき、経済に大きなショックを及ぼさないように支える役割が重要になると考えています。

スイス・リー ヘッド・サステナビリティ、エマージング & 政治リスクマネジメント マーティン・ワイマン氏(写真:鈴木 愛子)