アートとサイエンスを融合した経営など、独自のリーダー論、組織論が注目されている山口周さん。近著『ニュータイプの時代』では、新時代を生き抜く思考法や行動様式を提唱し、話題を呼んだ。山口さんにサステナブル経営の本質と日本企業の課題を聞くインタビューを3回連載でお届けする。

コロナ禍の中、企業はかつてない社会不安、経済危機に直面しています。こうした時代にあってサステナブル(持続可能)であるためには何が求められるのでしょうか。

山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、ボストン コンサルティング グループなどで戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。著書に『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。現在、中川政七商店、モバイルファクトリーの社外取締役も務める(写真:長坂邦宏)

山口 周 氏(以下、敬称略) 最初に逆説的なことを言いますけれども、企業経営の目的として「成長」を求めないことが大事です。フランスの経済学者トマ・ピケティは著書『21世紀の資本』の中で、先進国はすでにGDPの成長率のピークを越え、21世紀後半にかけてさらに低下していくと述べています。日本もかなり以前から低成長の時代に入っているのに、それでも経済的な成長をビジョンに掲げている会社を信用することはできません。例えばパタゴニアという会社は、「成長しないこと」を宣言しています。私はパタゴニアのような会社こそサステナブルであり、お手本になるのではないかと思います。

経済的な成長は、企業の目標としてわかりやすい面がありました。それが望めなくなるこれからの時代、企業は何をパーパス(自らの存在意義)にしていけばいいのでしょうか。

山口 私は大きく2つあると思います。1つは、社会が抱える課題を解決していくこと、もう1つは文化的な価値の創造、つまりある種の“遊び”を作っていくことです。

 下の図を見てください。横軸は「社会が抱える課題の普遍性」、縦軸が「課題を解決するときの難易度」です。ビジネスを考えるとき、どこから手をつけるかと言えば、「課題の普遍性が高く、解決の難易度が低い」つまり図の右下のところから始めます。普遍性が高ければそれだけ求める人が多い、市場が大きいということですし、解決の難易度が低ければ投資が少なくて済むからです。つまりROI(投資利益率)が大きくなるのです。

 産業革命以来、人々は様々な社会課題を解決することでビジネスを行ってきました。つらい農作業を機械化したり、食品を長く保存できるように冷蔵庫を開発したり、誰もが嫌だと思うことを解決することでビジネスをつくってきたわけです。

 「課題の普遍性が高く、解決の難易度が低い」ところは、参入障壁が低いこともあり、やがて競争相手が増えて市場が飽和します。すると、次に狙うところは「普遍性が高く、難易度がやや高い」か「普遍性がやや低く、解決の難易度が低い」、いずれかの方向に進んでいくことになります。

 そうやって少しずつ市場が広がってきたわけですが、21世紀に入る頃から何が起きているかというと、ここから先は市場が小さすぎて投資を回収できない、ここから先は難易度が高すぎて投資を回収できないという「経済合理性の限界」に直面するようになりました。例えば希少疾病の医薬品などは、市場が小さいために研究開発投資を回収しにくく、なかなか実現していません。市場に任しておけば解決するというミルトン・フリードマン以来の新自由主義の限界が見えてきたのです。

 課題が経済合理性の内側にあるとき、企業は生産性を高める、コストダウンすることで勝負してきました。それが限界にくると今度は「課題を再生産する」ということをやりだした。その冷蔵庫は古い、その洋服はダサいというように、今、世の中にあるものを破壊して市場をつくる。「個人消費を促進する」というと聞こえはいいですが、消費とはゆっくりと小さな単位で起こる「破壊(スクラップ)」です。マーケティングという、世の中に「破壊」を促進させる体系的な技術によってビジネスをつくってきたのです。

 しかし今や、ITを駆使してデータをかき集め、マーケティング理論に基づいて経営判断をすると、どの会社も似たような結論になる。「経済合理性の限界」で立ち往生するわけです。今、残っている課題は、環境破壊や貧困・格差など、経済合理性の外側にあるものがほとんどです。これらをどうやって解決していくかが問われている。多くの経営者が経済合理性の境界に立って「地平」を眺めているのではないでしょうか。

経済合理性の外側にある社会課題に取り組むことが、サステナブルを目指す企業のパーパスになり得るということですね。既に実践している企業はありますか。