サステナビリティの本質は、成長を求めないことである。企業は社会課題の解決に自らの存在意義を求めるべきだろう。だが、残された課題は経済合理性の限界を超えた難問ばかりだ。どうすれば課題の解決に道筋をつけることができるのか。山口周さんが披露するサステナビリティ経営論の第2回をお届けする。

前回、企業がサステナブルであるためには、経済合理性を外したところで課題を発見すること、新たな価値をつくることが鍵になるというお話でした。実際には、企業はどんな人材を集め、組織づくりをしていけばよいでしょうか。

山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、ボストン コンサルティング グループなどで戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。著書に『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。現在、中川政七商店、モバイルファクトリーの社外取締役も務める(写真:長坂邦宏)

山口 周 氏(以下、敬称略) 前提として話しておきたいのは、今、会社という組織の概念が大きく変わろうとしていることです。新型コロナ感染症の拡大によってリモートワークが常態化し、会社は社屋に人が集まるという物理的な存在から、仮想空間の中で人がネットワークでつながるという抽象的な存在になろうとしています。そこで働く人は、ある仮想空間から別の仮想空間にスイッチ1つで移動し、複数のプロジェクトに関わるというのが当たり前なると思います。

 仕事の概念も変わっていくでしょう。アメリカの社会学者タルコット・パーソンズは、コンサマトリー(現状快楽型)と、インスツルメンタル(未来志向型)という対義語をつくりました。仕事を明日生きていくため(報酬を得るため)の手段と捉えるとインスツルメンタルですが、仕事で自己実現を果たしている、やりがいを感じている場合はコンサマトリーといえます。コンサマトリーな働き方をしている人は集中力があり、あっという間に時間が過ぎるように感じられるでしょう。研究者やアーティストにそうした人が多かったのですが、これからはあらゆる仕事において増えていくと思います。

 なぜならネットワークの中で多様な働き方ができるようになると、人は本当に共感できるものを仕事にしたいと思うようになる。「この課題を解決すると素晴らしいと思う人は、この指とまれ!」と声を上げると、強いモチベーションを持った人が集まってくる。そうして生まれたチームは最強で最高のパフォーマンスを発揮しますから、経済合理性を超えて難題を解決するチャンスが生まれやすいと考えます。

たしかに最近は副業を解禁する会社が増えてきたこともあり、組織の枠を超えて課題解決に取り組むケースも目立っています。

山口 自分が共感できる事業に参加し、成果が上がれば、とても充足感が得られますよね。ここ30年間ではLinuxの開発が良い例です。4万人もの人がネットワークでつながり、無償で開発に参加した一大プロジェクトです。今やスマートフォンのソースコードは2億行を超え、同じものを経済システムの中で作ろうとすると1兆円近くのコストがかかるだろうといわれています。

 Linuxの開発者たちは、純粋にテクノロジーを追求することで、やりがいという精神的な報酬を得ている。開発するという「現在の行為」それ自体が報酬なのです。こうして仕事がインスツルメンタルなものからコンサマトリーなものに変わることで、サステナブルな社会に近づいていくのではないかと思います。