アンチ・フラジャイルな組織をつくる

山口 さらに言えば、これからの不安定で不確実な時代、組織のあり方はアンチ・フラジャイル(fragile:もろい)であるべきです。大企業は不確実性が高くなるとロバスト(強靭)な組織をつくろうとしますが、環境が一変した場合に対応できません。ロバストではなく、アンチ・フラジャイルがいい。

 「ダイエーとアメ横、どちらの組織が強いか」。50年前にこの問いがあったとしたら誰もがダイエーと答えたでしょう。しかし今、かつてのような巨大スーパーのダイエーは存在しませんが、上野駅近くにある商店街のアメ横は健在です。アメ横に入っている1つひとつの店舗の経営実態は脆弱かもしれませんが400もの店が集まることで全体として強い組織体をつくっているのです。

 1つの企業の中でも同じことが言えます。新しい事業を起こしても必ず成功するとは限りません。事業を立ち上げ、結果が出なければ軌道修正してやり直すというトライ&エラーが重要になってきます。1つひとつのプロジェクトはフラジャイルで吹けば飛ぶようなものであっても、トータルとして事業領域を押し広げていければいいという考え方が大事だと思います。

 組織の構造としては、洋菓子のミルフィーユのような多層構造がアンチ・フラジャイルです。2020年春にアメリカの経営誌フォーブズが発表した世界長者番付を見てちょっとおもしろいと思ったのは、ラグジュアリーブランドグループのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの取締役会長兼CEOを務めるベルナール・アルノーが3位に入ったことです。LVMHグループは、ルイヴィトン、セリーヌ、クリスチャン・ディオールなどの世界的ブランドを傘下に持ち、75の事業会社がファッションや化粧品、時計、宝石、酒などの多様なビジネスを展開しています。M&A(合併と買収)によって“遊び”の分野でミルフィーユのような事業構造を作り上げました。時代を象徴するアンチ・フラジャイルな会社ではないかと思います。

 フォーブズの長者番付の首位はアマゾン・ドット・コムCEOのジェフ・ベゾス、2位はマイクロソフト創業者のビル・ゲイツでした。「役に立つ・便利」を売るITで覇権を握った2社とともに、ラグジュアリーブランドという“遊び”を売る会社の経営者が初めてトップ3に入ったのは示唆的ではないでしょうか。

サステナブルであるためには、組織のフレームワークも、そこで働く人の結びつきも、柔軟性かつ可変性が求められるのですね。次回は日本の企業がサステナブル経営を進める上で取り組むべき課題についてうかがいたいと思います。

(写真:長坂邦宏)

(「第3回 ESG視点で見た日本企業の課題」に続く)