コロナ禍によって会社や仕事の概念は大きく変わった。人びとはネットワーク上で「共感」できる事業に集い、市場原理では手に負えない難題の解決へと向かう。変化が加速する中、サステナブル経営を目指す日本企業は今、様々な課題に直面している。果たして処方箋はあるのか。山口周さんが披露するサステナビリティ経営論の最終回をお届けする。

コロナ禍がもたらした経済不況で、企業はいかに雇用を維持するかという問題に直面しています。これはESG投資家の大きな関心事にもなっています。コロナが蔓延し始めた2020年の春先にはすでに、195もの機関投資家が共同で声明を出し、企業に対して健康と安全を優先し、雇用を維持することを求めました。

山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、ボストン コンサルティング グループなどで戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。著書に『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。現在、中川政七商店、モバイルファクトリーの社外取締役も務める(写真:長坂邦宏)

山口 周 氏(以下、敬称略) たいへん難しい問題だと思います。雇用をどうするかという問題は、国の社会保障のあり方と表裏一体だからです。国によって、「個人」を守るのか、「企業」を守るのかで社会保障のあり方が変わってきます。

 例えばスウェーデンは、「企業」ではなく「個人」を守るという立場です。2010年、アメリカの自動車メーカーのフォードは、経営立て直しのため、当時傘下にあったスウェーデンの高級車ブランド「ボルボ」をスウェーデン政府に買い取ってくれるように頼みましたが、政府は断りました。日本であれば間違いなく公的資金を投入するケースでしょう。結局ボルボは、大規模なリストラをやった上で中国の会社に買収されました。

 スウェーデン政府は、「自動車産業を守らず、情報産業へシフトする」と明言し、同じく破綻危機の状況にあったサーブとともにボルボを見放しました。その代わり、リストラされた個人については再就職のための支援をするなど社会保障をしっかりとつけたのです。

 これに対して日本政府は、企業を守ることで雇用を守るという方針ですが、これが本当にサステナブルなのかどうかはわかりません。産業の新陳代謝を遅らせることになるからです。スウェーデンは自動車産業を守りませんでしたが、今や世界のIT競争力ランキングで常にトップクラスのIT先進国になりました。

国際社会の中で日本のプレゼンスが下がっていると言われますが、世界が認識している課題に対して、日本の政府も企業も対応が追いついていないことも背景としてあるようです。かつて日本は環境先進国といわれた時期もありましたが、今は欧米に比べると温暖化対策や再生可能エネルギーの導入などで周回遅れの状況になっています。

山口 おっしゃるとおりです。2020年9月にアメリカのカリフォルニア州が、35年までにガソリン車の販売を禁止すると発表したところ、日本メーカーを含めて自動車業界が反発しているという報道がありました。今頃、何を言ってるんだろうと思いますね。

 すでにイギリスは35年に、フランスは40年にガソリン車やディーゼル車の新規販売を禁止すると宣言していて、欧州の自動車は急ピッチで対応を進めています。もう20年もすれば間違いなくガソリン車を作れない時代になるというのに、レシプロエンジンしか持っていない会社はとてもサステナブルとはいえません。電気自動車(EV)などの次世代自動車が主流になる社会をより早く引き寄せることが自動車メーカーの使命ですから、日本の会社も世界をリードする存在になってほしいと思います。