投資家を巻き込み、世界標準となるESG評価の指標をつくるプロジェクトが始まった。SDGsへの貢献を測り、様々な分野での企業ランキングを公開する。

WBAは、ESG評価の世界標準となるベンチマーク(指標)をつくるプロジェクトです。MSCIなど既存のESG評価機関の評価とは何が違いますか。

■ WBAのアライアンスのメンバー
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ゲルブランド・ハーフェルカンプ 氏(以下、敬称略) 「ワールド・ベンチマーキング・アライアンス」という名前の通り、我々は世界の主要企業2000社を評価する、世界標準のベンチマークをつくるプロジェクトを進めています。このアライアンスには英保険大手アビバやオランダ公務員年金基金の運用機関APG、北欧のノルデア銀行などの機関投資家をはじめ、国連財団、CDP、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)など129団体(2020年4月時点)が参加し、多様な団体を巻き込んでいることが特徴です。

 MSCIなどの評価や分析結果は有料で提供されていますが、WBAはNPOであり、評価結果を誰もが無料で見られます。評価のメソドロジーも公開しています。そして何より重要なのは、WBAの評価はESGリスクより国連の持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を測るものだという点です。企業の取り組みがSDGsにどれだけ貢献するかを評価するベンチマークをつくっています。

変革が必要な7つの分野

企業のSDGsへの貢献は、どのように測るのでしょうか。

ゲルブランド・ハーフェルカンプ
ワールド・ベンチマーキング・アライアンス(WBA) 事務局長
農村開発が専門。オランダ内務省に勤務後、農業経済省の政策担当官として熱帯地方のサプライチェーンの環境・人権問題に対する企業の責任問題に取り組んだ。インクルーシブビジネス、持続可能な農業サプライチェーン、食料安全保障の問題に関わる。その後、WBAのパートナー組織「インデックス・イニシアティブ」を設立。2017年から「企業人権ベンチマーク(CHRB)」のボードメンバー、18年からアムステルダムとロンドンを拠点とするWBAにて現職(写真:木村 輝)

ハーフェルカンプ 評価のポイントは「変革」です。SDGsは社会の仕組みを変えるトランスフォーメーション(変革)を求めています。我々は企業が変革に貢献する取り組みをしているかを評価します。SDGsは環境や女性活躍など17目標から成りますよね。我々はこれを、変革が必要な7分野に分類しました。「社会」「食料と農業」「脱炭素とエネルギー」「資源循環」「デジタル」「都市」「金融システム」です。

 「社会」分野では、人権配慮や労働条件の向上、女性活躍とエンパワーメントなどの変革が必要です。そこを評価します。「脱炭素とエネルギー」では、パリ協定に基づいて脱炭素を実現する変革が求められます。「都市」では、例えばアフリカなどで公害抑制のための交通システムの変革が求められます。

 「デジタル」では、情報通信技術を使いこなせる人とそうでない人の情報格差を解決するような変革。「資源循環」では資源の使い方をリニアからサーキュラーにする必要があります。「金融システム」の変革も重要です。日本の年金基金がどんな企業にどんな投資をするかで企業行動に影響を与え、他の分野の変革を促進したり抑制したりできます。

 「食料と農業」の変革も待ったなしです。世界の100億人に食料を提供するためには、生態系、水、海洋のシステムを守り、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を超えないような食料提供の仕組みが必要です。現在の食料システムは世界の栄養ニーズを満たせず地球の限界を超えつつあります。大豆の生産は森林破壊を引き起こし、漁業も持続可能ではありません。食料システムの変革を起こさないといけません。

 この7分野で企業の取り組みを評価するベンチマークやインデックスを開発しています(下の表)。

■ 変革をもたらす7分野と、評価に用いるベンチマーク
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「脱炭素とエネルギー」の分野には、既にCDP気候変動という評価があります。WBAが見る評価ポイントはCDPと何が違うのですか。

ハーフェルカンプ 実はWBAの気候変動に関するベンチマークは、CDPと協力してつくっています。それを用いて世界の大手自動車メーカー25社の低炭素経営ランキングを19年12月に発表しました。

 自動車産業の場合、現在のCO2排出量ではなく、自動車産業がどう変革するのかに我々は関心があります。投資、R&D、公共政策へのエンゲージメントがどう変わり、どうカーボンニュートラルを達成していくのか。現在のESGリスクではなく、今後10年の社会に及ぼす影響を見るのがCDPとの違いです。

 評価に当たっては、科学的な情報に基づいて、また社会的な期待に基づいて測ります。