投資やR&Dも評価項目

具体的にはどんな項目を評価するのですか。スコアリングの手法を教えてください。

ハーフェルカンプ 7分野にそれぞれパートナーがいて、共同で評価手法や指標を開発しています。「社会」分野の人権ベンチマークは、アビバ・インベスターズなどがNGOと設立したイニシアティブ「企業人権ベンチマーク(CHRB)」がパートナーで、指標に基づく企業スコアを16年から公表しています。

 「脱炭素とエネルギー」ではCDPと仏環境エネルギー管理庁がパートナー。彼らが設立した「低炭素社会への移行イニシアティブ(ACT)」の評価手法を活用しました。TCFDも協力しています。

 ACTは科学に整合した温室効果ガス削減目標(SBT)に基づく評価を行っています。自動車業界では、削減目標、低炭素技術へのR&D投資、サプライヤーとのエンゲージメント、政策へのエンゲージメント、ビジネスモデルなど9項目で評価します。未来を見据えた「beyond ESG」を見ています。

企業が開示した公開情報で評価するのですか。

ハーフェルカンプ 利用するのはサステナビリティ・レポートやアニュアルレポートなど企業の公開情報のみ。データに抜けがあれば企業に追加情報の開示を求めます。人権の評価では、評判リスクがないか、人権侵害の申し立てが実際になされていないかなど第三者の情報も見ます。

シーフードに高まる関心

「食料と農業」分野では、シーフードのインデックスもつくりましたね。投資家の関心は水産にも広がっているのでしょうか。

ハーフェルカンプ そうですね。16年にタイの水産現場で奴隷労働や人身売買が大問題になり、アビバ・インベスターズなどの投資家が労働組合と協力して調査を始めました。投資家の関心は食料のサプライチェーンの透明性に向かっています。その一角がシーフードです。

 WBAは「シーフード・スチュワードシップ・インデックス」という指標を開発しました。水産企業のマネジメントとガバナンス、サプライチェーン、生態系維持、人権と労働条件、地域社会などの5分野13項目を評価するものです。評価する世界の水産企業は350社。このうち主要プレイヤーであるトップ30社のスコアとランキングを発表しました。

30社の中には日本企業も6社入っています。スコアは概して低く、ランキングも8位、17位、20位、22位、23位、29位と低い。何が原因ですか。

ハーフェルカンプ 理由は2つあります。1つは、外国企業に比べてステークホルダー・エンゲージメントの経験が浅いこと。欧州やタイなどの企業はこれまで持続可能性の取り組みに関して市民団体との長い対話の歴史がありました。しかし日本企業はNGOとのやり取りが少なく、開示や透明性が低いこと。

 2つ目は、日本企業の構造的な問題です。特に大企業がそうですが、世界中に多くの子会社があり、持続可能性に関する戦略で一貫性に欠けるところがあります。例えば日本水産は持続可能性の戦略は強力なものを持っていますが、子会社が90社あり、戦略を実行に移すのに時間がかかります。戦略が実行されれば将来スコアは改善されるでしょう。

WBAのベンチマークは、誰がどのように活用していますか。

ハーフェルカンプ まず企業による活用を期待しています。企業には持続可能な経営のためのガイダンスが必要で、WBAの結果を改善に使ってもらいたい。そのためにも公開情報であることが重要。従業員も顧客も投資家も社会一般も皆が知っているからこそ経営者も取締役会も真剣に取り組むのです。

 WBAのデータは投資家も活用しています。既に議決権行使や企業とのエンゲージメントに活用している投資家もあります。

 ところで、あなたも年金に入っていますよね。年金基金がどんな企業に投資しているか、そしてそれら企業の持続可能性パフォーマンスを知っていますか。企業の将来を見通せなくてはなりません。WBAはそれを可視化しているのです。

ワールド・ベンチマーキング・アライアンス(WBA) 事務局長 ゲルブランド・ハーフェルカンプ氏
(写真:木村 輝)