金融界が、気候変動対策と並行して企業に求めるのは、生物多様性や自然の保全だ。企業活動に伴う自然へのリスクとインパクトの情報開示を求める「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が発足し、2022年に試験的な開示が始まる。TNFD共同議長のデビッド・クレイグ氏に金融界が生物多様性を重要視する意図を聞いた。

企業にとって、気候変動対策と並ぶテーマとして生物多様性保全が重要になってきた。金融機関は企業の生物多様性保全の情報を知りたがっている。金融機関にとって、企業活動が自然にどれだけ依存し、どんな影響を与えているかを把握することがなぜ重要になってきたのか。

デビッド・クレイグ 氏(以下、敬称略) どんな企業も素材や食料など自然に依存して事業活動をしている。しかし、自然に起因する財務リスクを理解していないのが現状だ。

 世界経済フォーラムは、自然に関連した経済活動が世界経済全体の50%を占め、自然関連リスクが年間44兆ドルに上ると報告している。昨今、土地利用や森林伐採リスクが高まり、企業活動やサプライチェーンにも影響が出始めた。自然関連リスクの定量化を今すぐ行わなければいけない状況になっている。

 そのために、企業に対して自然への依存度と影響を把握して開示を求める「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が21年6月に発足した。TNFDは世界の資金の流れを、「ネイチャー・ポジティブ」に貢献できるように変えることで、生態系や自然資本を守る後押しをすることを狙っている。

デビッド・クレイグ 氏<br>自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)共同議長
デビッド・クレイグ 氏
自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)共同議長
金融市場にデータ、分析、テクノロジーを提供する世界最大級の企業リフィニティブの創業者兼前CEO(最高経営責任者)で、ロンドン証券取引所グループの戦略アドバイザー。以前はマッキンゼーのパートナーやロイターの戦略グループ長を務めた。世界経済フォーラム(WEF)のバンキング・ガバナーズ・ボードおよびWEFデジタル・ディスラプション&イノベーション・グループのメンバー。インド・英国金融サービス・パートナーシップ(IUKFP)の共同議長も務める
(写真:TNFD提供)

生物多様性や自然が大切だという指摘は以前からあった。ここ1~2年の動きが加速しているのは、何が変わったからなのか。

クレイグ 認識は以前からあった。しかし、危機の規模がここまで大きいという認識が新たに出てきた。

 また、気候変動については、世界はネット・ゼロに向けたコミットメントを進めているが、「自然」と「気候変動」は独立してバラバラに対応できないという認識が広がってきた。森林がCO2吸収源となるなど、気候変動のソリューションと自然関連のソリューションは切り離せるものではない。

 金融市場はこれまで気候リスクを評価してきたが、自然に対しても同じアプローチが必要になった。気候変動と自然に包括的に対応しなければならないという認識が金融界で高まっている。