脱炭素化の実現に向けて企業は「メタネーション」の実用化を急ぐ。工場で大量に排出されるCO2の活用方法としても期待が高まる
CO2と水素を合成してメタンを作る「メタネーション」が脱炭素化に有効な技術としてにわかに注目を集めている。合成メタンは都市ガスの原料である天然ガスを代替でき、ガスの脱炭素化の鍵になる。日本政府は、2050年に既存のガス供給インフラで合成メタンを90%利用することを目標に掲げる。
日立造船は21年11月、水電解装置やメタネーション設備を中心とする研究開発・製造拠点の本格運用を開始した。総投資額は数億円である。同社は、電力を貯蔵・活用するパワー・トゥー・ガス(PtG)事業に注力しており、同年4月には「PtG事業推進室」を設置している。
水を電気分解して水素を生成する水電解装置はこれまでに約30基の導入実績があり、現在も多くの引き合いがあるという。再生可能エネルギーで発電した電力を使って水素を生成し、工場などで排出されるCO2と合成してメタンを作る。これを燃料や原料として活用することで脱炭素化を実現するシナリオを描く。CO2排出量が多い産業や熱を多く使う産業から需要が見込めそうだ。


日立造船は新拠点を中心に技術の開発や実証を進め、25年ごろの商用化を目指す。22年春には、東京ガスや神奈川県小田原市の清掃工場が同社のメタネーション設備を使って実証試験を始める予定である。日立造船の芝山直常務は、「30年までに(PtG全体で)100億円の事業にしたい」と言う。脱炭素化の波を捉え、洋上風力と共に事業を強化する。
工場で「カーボンリサイクル」
21年9月から、メタネーションの実証試験を実施しているのがアサヒグループだ。国内食品企業としては初めてという。グループの研究子会社がIHI製のメタネーション設備を導入した。ボイラーから排出されるCO2を回収して水素と合成し、メタンを作る。23年2月まで実証試験を続け、合成メタンの品質や採算性などを検証する。
アサヒグループは、50年にサプライチェーン全体のCO2排出量を実質ゼロ、自社のCO2排出量を30年に19年比50%削減を目標に掲げる。目標達成の手段の1つとしてメタネーションを位置付け、可能性を探る。将来的に、グループの工場でCO2を燃料や原料として再利用する「カーボンリサイクル」を視野に入れる。
脱炭素化の有力手段として再生可能エネルギーの活用が進みつつあるが、その導入には限界がある。CO2を回収・利用するメタネーションの採用が進む可能性がある。