買収の狙いは、ISSが持つ膨大なESGデータだ。世界の取引所が情報サービス企業への転換を急ぐ。

 2020年11月17日、ドイツ取引所が議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)を買収すると発表した。ISSの株式の80%を約2370億円で取得し、21年前半の完了を目指す。ISSは、株主総会で企業や株主が出した議案に対して賛否を助言するサービスの世界最大手だ。そんなISSをなぜドイツ取引所は買収するのか。

 狙いは、ISSが持つESGのデータだ。ドイツ取引所のテオドール・ワイマーCEO(最高経営責任者)は、「ISSが持つESGの専門知識とデータを補完することで、世界をリードするESGプレイヤーになる」と言う。ISSは、世界中の企業の取締役の人数、属性、株主総会の議案、賛成率など、ESGに関するデータを持つ。ドイツ取引所は今後、こうしたデータを使ったサービスや商品を収益に結び付けていきたい考えだ。

米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)の買収に踏み切ったドイツ取引所が運営するフランクフルト証券取引所
(写真:Alex Kraus/Bloomberg)

取引所から情報ビジネスへ

 買収の背景には、取引所ビジネスの限界がある。株式の売買の場を提供する取引所ビジネスは安定的な収益が見込める一方、成熟したビジネスで成長が見込めない。そこで世界の取引所が目を付けているのが、情報ビジネスだ。

 英ロンドン証券取引所グループは今や、傘下の英FTSEラッセルが提供する株価指数や金融データなどの情報サービス事業が売上高の39%を占める。19年8月には金融情報会社の英リフィニティブを買収すると発表し、この動きを加速させている。

 日本株が対象の「FTSE Blossom Japan Index」を年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用するなど、同社の株価指数は世界で利用されている。こうした株価指数を使った上場投資信託(ETF)を運用会社が販売する場合、株価指数を開発した取引所にライセンス料を支払う。これが取引所の収益になる。

 ISSが持つESGデータを利用すれば、ガバナンス優良企業だけを集めた株価指数や、取締役の賛成率が高い企業の株価指数などの算出も可能となるだろう。ドイツ取引所の狙いはここにある。

 日本取引所グループもESG情報をビジネスにしようとする動きを見せている。20年11月20日にESG情報を集約したウェブサイト「JPX ESG Knowledge Hub」を開設。現在は企業向けの情報提供が主だが、将来的には企業と投資家を結ぶ情報プラットフォームにしたい考えだ。

 取引所サービスから情報サービス企業へ─。世界の取引所の競争が加速するなか、ESGがその主戦場になりつつある。