リスクと機会を金額換算

 20年版では、ESG投資家からの開示要請が特に強かった気候関連のリスク・機会による同社への財務影響について初めて具体的な金額を示した。マイナス影響の「リスク面」では、非化石証書購入時のコスト増が1億kWh当たり1億3000万円、19年度の台風関連被害額が208億円といった具合だ。一方、プラス影響の「機会面」では、原子炉が1基稼働した場合のコスト削減額が年間900億~1100億円、降水量の増加による水力発電の利益増が出水率1%増当たり10億円などの試算を示した。

 「投資家には、リスクだけでなく、機会にも注目してほしい。1.5℃シナリオでは50年の電力需要が現状よりやや下がるものの電化率は現状の3割弱から5割以上になるとみている。これは当社にとって大きな機会だ」と、ESG推進室地球環境プロジェクトグループマネージャーの伊藤弘和氏は話す。

 とはいえ、気候関連の物理的なリスクと機会をどう捉えるかについては、社内で議論が分かれたという。

 一般に、強大な台風や大雨は、電力設備などに損害をもたらす物理リスクと考えられる。実際に19年に関東地方に襲来した台風15号によって同社は大きな損害を被った。

 一方で台風被害が相次いだことで社会の防災意識が高まり、災害時に電力を供給する蓄電池や電気自動車(EV)の導入に弾みがついた。これは電力需要を高める動きであり、同社にとって機会をもたらす。

 「EVは電力需要を高める上で重要な鍵になると考え、社内にEV推進室を設置して普及促進策を実施している。こうした取り組みを投資家にアピールしていきたい」と、伊藤氏は対話への意欲を示す。

 同社は国内大手電力として初めて、「30年度のCO2排出量を13年度比50%削減」という個社の削減目標を公表している。政府の脱炭素宣言を受け、新たな目標をどう設定するのか。投資家の注目が集まる。

 「50年の目標はそう遠くない時期に発表する」(富田氏)。いずれにせよ目標達成には、再エネの普及と原発の再稼働という大きな壁が立ちはだかっている。

東京電力は再エネの主力電源化に向け、浮体式洋上風力発電の低コスト化技術の開発に取り組んでいる<br><span class="fontSizeS">(写真:東京電力ホールディングス)</span>
東京電力は再エネの主力電源化に向け、浮体式洋上風力発電の低コスト化技術の開発に取り組んでいる
(写真:東京電力ホールディングス)