2つ目の、産業競争力の維持についてはどうか。

本部 製造業、なかでも稼ぎ頭の自動車産業にも高い電力料金は打撃だろう。既に低コストの海外に生産が移るなか、海外流出と国内生産拠点の縮小がさらに進む恐れもある。

産業構造の将来像示せ

政府はどう対処すべきか。

東京大学公共政策大学院 客員教授 本部 和彦氏(写真:北山 宏一)

本部 政府は、50年実質ゼロの実現に向けて社会や産業構造が変化していく姿を早期に明確に描き、実現に取り組むべきだ。30年から50年に向けて、どの製造業がどうなるかや、次の稼ぎ頭となる産業をどう育てるかを示してほしい。失うのは簡単だが獲得するのは難しい。

 製造業に代わって稼げる産業として金融やデジタル・ITが挙げられるが、これらも電気に依存する産業だ。電力料金が急に高騰しかねない20年代後半や30年代は目前に迫る。

 風力産業の成長には期待したい。三菱重工業がヴェスタスと協力するほか、東芝が国内生産に意欲を示すなどの動きがあるが、コスト競争力ある関連設備の生産能力を国内に擁するには時間がかかる。年間100~200基の風力発電機の新設と運転・保守のサプライチェーンで何人を雇用できるかを明らかにしてほしい。従来のものづくりを守って国民の生活を維持しながら、風力など新分野や金融やデジタル・ITを育てるなど、国民や産業界が納得できる道筋を描く必要がある。

3つ目の原子力発電の利用は。

本部 30年目標を強化しながら電気料金の高騰を抑えるには、発電コストの安いゼロエミ電源である既存の原発を、安全性を高めながら使い続けるのが賢明だ。次世代安全炉や核融合の実用化には時間がかかる。

 現在の「基本計画」は原発への依存をできる限り低減するのが基本方針だ。再稼働が進まないなか、運転開始から40年たった原発は認可を得て運転を最大20年延長した後、廃炉が想定される。30年目標を強化するなら、東日本大震災後に運転停止した期間をカウントしないことや、建設が中断された原発の建設再開、そして新設も覚悟すべきだ。ただ、国民は安全性を懸念している。新設炉ではいかに安全性を高めるかを含めて、国民に問う必要がある。

原発の利用の見直しや新設は、国民の理解が必要だ。国は基本計画をまとめる21年7月までに踏み込めるか。

本部 間に合わないようでは困る。30年目標の強化の前提となる今回の基本計画に30年以降の原子力利用の継続を明記しなければならない。

 50年の実質ゼロを目指すことは、これほどの重い覚悟を国民に求めることに他ならない。政府は、30年目標の強化に踏み切るなら、これを国民に問わなければならない。