企業の課題は、環境保護への多大な出費対応と、社会課題解決事業による収益強化にある。メインバンク制度など日本経済を支えた“渋沢資本主義”を進化させる時が来ている。

 2021年11月に英グラスゴーで開催された気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)においてスピーチした岸田文雄首相は、滞在わずか8時間で、現地を後にした。成長と配分を考える「新しい資本主義」を掲げる岸田首相は「グラスゴーが嫌いなのか」と思わず考えてしまった。

岸田文雄首相は2021年11月、英グラスゴーで開催した気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の会場を訪れ、スピーチした<br><span class="fontSizeS">(写真:代表撮影/ ロイター/ アフロ)</span>
岸田文雄首相は2021年11月、英グラスゴーで開催した気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の会場を訪れ、スピーチした
(写真:代表撮影/ ロイター/ アフロ)

グラスゴー=“古い資本主義”?

 というのもグラスゴーは『国富論』の著者、アダム・スミスがかつて学び、教鞭を執った街。スミスの「神の見えざる手」に代表される個人の自由な行動が全体の利益を高めるという考えは、脱・新自由主義を掲げる首相にとって“古い資本主義”と感じて、早く立ち去りたかったのかもしれない。

 一方で岸田内閣による「新しい資本主義実現会議」のメンバーにコモンズ投信会長の渋澤健氏が加わったことにも注目したい。渋澤氏は「日本の資本主義の父」とも呼べる渋沢栄一の玄孫に当たる人物。渋沢栄一と言えば明治時代から銀行をはじめ紡績会社や造船所、ホテルなど500もの企業設立に関わり、産業や社会の基盤を作ったことで知られる。日本経済と企業を支えたメインバンク制度や年功序列・終身雇用などの労使一体の経営、官僚による産業界への指導や調整などは“渋沢資本主義”の成果と言える。

HD、ジョブ型、産業育成が主役

 新しい資本主義を考えるヒントはまさに渋沢主義の進化にあるのではないだろうか。というのも、今や経済発展の在り方は、かつての「大量生産・大量販売」から「環境配慮と社会課題の解決」に移行している。企業にとっては、自社の施設や工場からのCO₂排出を減らす、また太陽光などの再生可能エネルギーを使うなど環境配慮に多大な支出を伴う。

 一方で電気自動車やインフラ遠隔整備など社会課題を解決する製品やサービスを主力事業として、収益力を高めることが成長の条件となっている。「コスト(費用)とリターン(収益)」を念頭に資金や人材を適切に効率よく活用することが求められる。その推進に伴い、かつてのメインバンク制度は持ち株会社(ホールディング制)に、年功序列はジョブ型に、産業界への調整も支援・育成に変わった。環境・ホールディングス・社会課題解決と、まさにESG経営の時代が到来している。

 渋沢栄一は『論語と算盤』で知られるが、実はアダム・スミスも『道徳感情論』で社会への貢献や連帯の重要性を指摘している。資本主義が古いか新しいかよりも、企業経営がどれだけ進化するかに注目したい。

さかいこういち
日経ベンチャー記者、日経ビジネス記者、ニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長、日経情報ストラテジー編集長、NikkeiAsian Review Managing Editor、日経ビジネス発行人などを経て現職。緒方貞子氏やウォーレン・バフェット氏の取材などを通じてESG関連の経営課題と企業価値の向上をテーマとしている