ネスレはカカオ生産で児童労働を排除する新プログラムに乗り出した。EUで始まる人権デューデリ法制化への対策も背景にあるとみられる。

 スイスの食品大手ネスレは、「キットカット」などチョコレート製品の原料であるカカオ生産で、児童労働を排除する新しいプログラムを2022年1月に始めた。30年までに13億スイスフラン(約1630億円)を投じる。

 ネスレが調達するカカオの主要産地のコートジボワールやガーナでは児童労働が深刻な社会問題となっている。最大の原因は貧困だ。ネスレは農家の収入を向上させるため、09年から環境や人権に配慮したカカオの生産を証明するレインフォレスト・アライアンス認証の取得などを支援する「ネスレカカオプラン」を展開し、児童労働リスクのモニタリングや監査も行ってきた。

 一定の成果が上がったが、昨今、貧困問題は気候リスクや教育問題と絡み合い、より複雑化している。加えて欧州連合(EU)は企業に人権対策を義務づけ罰則も科す人権デューデリジェンス法制化を進め、22年2月に法案を発表した。ネスレは児童労働の排除には認証取得や監査だけでは不十分と判断した。新プログラムは人権デューデリを強化し、児童の就学や生計向上に取り組む農家に経済的インセンティブを与える。

 具体的には「児童の就学」、収入向上が見込める「生産性の高い農法」、「アグロフォレストリー」、「家畜の飼育など収入源の多様化」の4つの活動を推奨。1つの活動ごとに、農家が成果を上げれば1軒当たり年間100スイスフラン(約1万2500円)の報奨金を払う。4つの活動を行えば報奨金を上乗せし、500スイスフラン(約6万2600円)を払う。農作業の研修や、女性の小規模ビジネスへの融資なども支援する。成果が定着すれば報奨金を引き下げる。

ネスレは認証カカオの生産を支援し、児童の就学に取り組む農家に報奨金を支払う<br><span class="fontSizeS">(写真:ネスレ日本)</span>
ネスレは認証カカオの生産を支援し、児童の就学に取り組む農家に報奨金を支払う<br><span class="fontSizeS">(写真:ネスレ日本)</span>
ネスレは認証カカオの生産を支援し、児童の就学に取り組む農家に報奨金を支払う
(写真:ネスレ日本)

認証と非認証を完全分離

 現在、ネスレが使用するカカオの約半分に当たる20万tが「ネスレカカオプラン」に沿って生産され、12万4000軒の農家が従事している。大半がコートジボワールとガーナの農家だ。新しいプログラムは22年からコートジボワールの1万軒に導入し、24年にガーナに拡大、30年には全ての農家に広げる計画だ。

 産地までの追跡も強化する。認証カカオと非認証カカオが混合する「マスバランス方式」から、完全に分離して流通管理する「セグリゲーション方式」に約5年かけて切り替え、環境・人権配慮を担保する。23年には新プログラムを導入したセグリゲーション方式の認証カカオを一部のキットカットに使う予定だ。

 EUの人権デューデリ法制化はサプライチェーンを通して日本企業にも波及する。人権配慮の証明が市場に受け入れられるための鍵になる。