CO2排出や化石資源ビジネスのリスクを織り込む投資手法を開発した。世界で脱炭素化に向けて政策や市場が激変。運用機関は独自手法で対応する。
米資産運用大手のゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)は、気候変動に関わるリスクに対応する新たな運用手法を採用した。株式を発行する企業の温室効果ガス排出量や、保有資産に埋蔵される化石資源の量に着目する。2020年11月末までに、同社の公募投信「ビッグデータ・シリーズ」を含む全てのクオンツ(計量)株式アクティブ運用に組み込んだ。
同社は15年から、運用ポートフォリオに組み入れた銘柄による温室効果ガス排出量の合計値を削減してきた。今回の手法により、気候変動によるマイナスの影響をさらに軽減する。
排出量が多い企業に対する投資引き揚げ(ダイベスト)ではない。仮にCO2排出に課金する炭素税などのカーボンプライシング(炭素価格、CP)が導入や強化された場合に、投資先企業の財務に影響が及ぶリスクを織り込む。ポートフォリオの低炭素化は、特に欧州の機関投資家からの要望が強かったという。
企業の気候リスクを独自算出
GSAMは、気候変動によるリスクのなかでも、政策や、顧客の嗜好などが脱炭素に向けて変化したことで、企業がマイナスの影響を受ける「移行リスク」を軽減するために手法を開発した。例えば炭素税でコストが膨らんだり、CO2排出の少ない他社製品に顧客を奪われ売り上げが減ったりするケースが挙げられる。
具体的には運用対象となる全ての企業について、「混合排出量」と「埋蔵排出量」の2つの数値を算出し、これを基に運用ポートフォリオを調整する。
混合排出量は、企業の温室効果ガス排出量を単に算出したものではない。企業が抱える移行リスクの大小を反映した、GSAM独自の数値だ。化石資源の生産事業を手掛ける企業のリスクは高く、化石資源を買って使う企業は低めになるように、リスクを傾斜配分している。
例えばデータセンターのサプライチェーンを想定すると、使用電力の燃料になる石油や石炭、ガス会社に50%のリスクを配分する。火力発電所を運転する電力会社に25%、電力を買うデータセンターに12.5%、データセンターの機能を使う顧客に12.5%のリスクを配分する。
この配分を基に、データセンターの混合排出量を次のように算出する。まずスコープ1排出量に25%のリスク配分係数を掛けて「直接事業排出量」を算出する(下表のア)。
続いてスコープ2と、スコープ3の「購入した商品やサービス」の排出量に12.5%のリスク配分係数を掛けて「上流サプライチェーン排出量」を求める(同イ)。アとイの合計が、データセンターの混合排出量だ。
エネルギー業界の企業は、スコープ3の「販売した製品の使用」、つまり販売した化石資源によるCO2排出量に50%のリスク配分係数を掛けた「下流化石燃料排出量」(同ウ)を加える。GSAMは、世界産業分類基準でエネルギー業界に分類される企業の下流化石燃料排出量を算出する。
スコープ1は工場などでの温室効果ガスの直接排出、スコープ2は購入した電力や熱の利用による排出、スコープ3は取引先や顧客を含むサプライチェーンからの排出を指す。

スコープ1排出量は製造業の生産工程、自家発電機、ボイラーなどでの化石資源の燃焼や、社用車の走行による直接排出。スコープ2は購入した電力や熱の利用による排出。スコープ3は企業のサプライチェーンからの排出のこと
(出所:ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの資料を編集)