日本の「脱炭素」宣言は実現可能なのか、識者のインタビューをお届けするシリーズ第2回。実現のためのシナリオを独自に提案したWWFジャパンの小西雅子氏に聞いた。

 世界自然保護基金(WWF)ジャパンは2020年12月、システム技術研究所に委託して独自に作成した「2050年ゼロシナリオ」アップデート版を発表した。同研究所の槌屋治紀代表と共にシナリオを作成したWWFジャパン小西雅子氏に、50年のカーボンニュートラル(排出実質ゼロ)の実現可能性を聞いた。

世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン) 専門ディレクター(環境・エネルギー) 昭和女子大学 特命教授 小西 雅子 氏
(写真:木村 輝)

実現の鍵はDX

菅義偉首相による50年実質ゼロ宣言をどう受け止めたか。

小西 雅子 氏(以下、敬称略) 「よくぞ踏み込んだ」と感激した。米国でジョー・バイデン新大統領が選挙期間中に50年実質ゼロを掲げ、中国も60年実質ゼロを宣言していた。欧州連合(EU)も加えた世界の3大経済圏が実質ゼロの方針を示した。国の危機感の表れだろう。

政府は50年実質ゼロに向けて30年の温室効果ガス削減目標や、エネルギー利用を見直す。WWFによるシナリオと提言はどのような内容か。

小西 50年の実質ゼロ実現には、(毎年同率で削減するなら)30年には温室効果ガス排出量を13年比で45%削減するのが望ましい。

 まずは省エネだ。現在想定できる省エネ対策のいっそうの普及でエネルギー需要は30年に21.5%減らせる。

 再生可能エネルギーは風力発電と太陽光発電を中心に拡大し、全発電量に占める割合を30年までに47.7%に引き上げる。石炭火力は全廃しても、既設のLNG(液化天然ガス)火力の設備利用率を現在の35〜50%から60〜70%に高めることで電力需要を賄える。地域間連系線のような系統インフラの増強は、30年にはまだ間に合わずとも実現できる。

 地域気象観測システム(アメダス)の全国842地点におけるデータを用いたシミュレーションで1時間ごとの太陽光と風力の発電量を通年で予測したところ、再エネ比率を47.7%に高めながら火力発電の最適運用によって電力需要を賄えると分かった。

 このエネルギーミックスを実現する場合、石炭からLNGへの燃料転換などを含めてGDP(国内総生産)の1.6%程度の対策コストが生じるとみられるが、国民全体で負担できる規模だろう。世界全体で脱炭素対策のコストは1〜2%と指摘される。日本も同等ということだ。むしろ石炭火力が減って太陽光や風力に置き換わるほど、燃料費が減り、経済への影響はプラスに早く転じる。

 実現の鍵はデジタルトランスフォーメーション(DX)による精度の高い電力の需給調整だ。再エネは天候によって出力が変動しやすい。一方、電力会社は、電力需要が刻々と変化するのに合わせて電源の発電量を調整し、供給する電力量を常に一致させる必要がある。天気予報を基に再エネ発電量を予測し、これを補うLNG火力など他の電源の発電量を、デジタル技術で調整すれば需要にきっちりと合わせて供給できる。

 一方、日本の石炭火力は古く、効率の低い設備が多い。段階的廃止も検討したが、既存のLNG火力の運用に余裕があるため、新旧や効率を問わず石炭火力の全廃を提案した。メーカーの工場で使う熱や蒸気の生産設備も、石炭を使っているものをガスに燃料転換する必要がある。