ESG経営のお手本とされるユニリーバが本社移転を完了。株主の声を重視して、オランダとの2本社制度をやめ、英国に置く。

 2020年11月、ユニリーバは英国への本社移転手続きを完了したと発表した。約90年前にオランダのマーガリン会社と英国の石鹸会社が合併して誕生したのがユニリーバであり、それ以後、同社はオランダ(蘭)と英国の2本社制を採用してきた。

 18年、当時CEO(最高経営責任者)だったポール・ポールマン氏は経営効率を高めるために2本社制度をやめて、蘭本社に統一する計画を発表。ところが、これが大株主から大反発を食らう。英国のロンドンは金融の中心であり、ユニリーバは証券取引所の様々な指標銘柄として採用されている。英国本社を廃止すれば、それらの指標から外される可能性が大きく、株式の取引にも重要な影響を及ぼすというのがその理由だ。

 ユニリーバは環境保全や従業員、地域社会などに幅広く配慮するESG経営のお手本とされる企業。その推進役が09年から10年にわたってCEOを務めたポールマン氏である。就任と同時に「四半期決算」の発表をやめて、短期重視ではなく長期目線の経営を宣言。さらに社会や自然との調和を目指す「サステナブル・リビング・プラン」を発表し、持続可能な経営を掲げて世界の企業に大きな影響を与えた。今で言う、「脱・株主第一主義」だが、本社移転が示す通り、株主を軽視しているのではない。時と場合に応じて株主の意向を尊重する臨機応変な姿勢に本質があることが分かる。

2009年から10年にわたってCEOを務めたポール・ポールマン氏は、サスティナブル経営の道筋をつけた<br><span class="fontSizeS">(写真:Chris Jackson - WPA Pool/Getty Images)</span>
2009年から10年にわたってCEOを務めたポール・ポールマン氏は、サスティナブル経営の道筋をつけた
(写真:Chris Jackson - WPA Pool/Getty Images)

 ユニリーバを巡っては、日本法人が履歴書から性別を廃止したり、働き方改革をいち早く進めたりするなどダイバーシティ推進が日本でも多く報道される。

M&Aを積極的に展開

 一方で株主を尊重した動きへの言及は少ない。だが、事業展開に目を向けると利益性を重んじて様々なM&A(買収・合併)に関わっていることが分かる。象徴例17年。米大手食品メーカー、クラフト・ハインツからの買収提案を拒否する一方で、韓国の化粧品メーカー、カーバー・コリアを約3000億円で買収した。一方でオリーブ油やマーガリンの事業を売却するなど細かく事業再編を繰り返している。通常業務は蘭でも行うものの、英国本社への移転はその集大成とも言える。

 20年12月、ESG重視の経営は新たな段階に入った。現CEOのアラン・ジョープ氏は「環境行動計画」を発表。カーボンニュートラルへの計画を示したが、これを21年5月の株主総会の同意事項とした。つまり環境配慮の進め方についても株主からの意見や助言をもらってから正式決定するというものだ。ユニリーバの大株主にはブラックロックなど米国の大手機関投資家が名を連ねる。環境配慮への取り組みには熱心とされる運用会社だけに議論が注目される。

 ユニリーバの経営が示すのは、ESG経営が決して株主の優先順位を下げるとは限らないこと。一方、株主も今や短期の収益ではなく環境配慮などESG項目の実践を求めていること。英本社移転がESG経営の新しい幕を開ける。