安達 功/日経BP 総合研究所 フェロー

ロシアのウクライナ侵攻で木材・住宅業界が揺れ、産業界は3つのリスクを突き付けられた。供給網の安定性を再検証したうえで、“見える化”を急ぐ必要がある。

 木材の国際認証機関「PEFC」は2022年3月上旬からロシアとベラルーシの木材を認証対象から除外した。日本では戸建て分譲最大手の飯田グループホールディングスが、21年に600億円を投じて買収したロシア木材会社の対処に追われる。専制的なリーダーがいる国の激変リスクを見誤ったための悲劇に産業界も揺れている。

ウクライナ侵攻後の2022年3月上旬、国際認証機関の「PEFC」はロシアとベラルーシを起源とする木材の森林認証停止に踏み切った。森林管理協議会(FSC)も同様の方針を打ち出した(写真はロシアで21年に開催された軍事展示会で撮影された)<br><span class="fontSizeS">(写真:SOPA Images/LightRocket/Getty Images)</span>
ウクライナ侵攻後の2022年3月上旬、国際認証機関の「PEFC」はロシアとベラルーシを起源とする木材の森林認証停止に踏み切った。森林管理協議会(FSC)も同様の方針を打ち出した(写真はロシアで21年に開催された軍事展示会で撮影された)
(写真:SOPA Images/LightRocket/Getty Images)

現実を「まさか」と甘く捉える

 飯田グループホールディングスは21年12月8日付のニュースリリースでロシアの木材会社買収について「森林資源を安定確保することはESG経営の視点で極めて重要」と記した。

 この設定自体は正しいが、ESG経営を実現するうえでのいくつかのリスクを今回の事変は示した。

 1つ目は地政学上の激変リスクだ。同社はロシアの木材会社をグループ傘下に加えることにより、「ウッドショックに見られるような需給ひっ迫時や市況変動に影響されることなく安定的かつ永続的に木材を調達できるようになり」その結果、中核事業の競争力を高められると位置付けた。しかし、安定的かつ永続的に調達できるのは平時のことで、ここに地政学リスクを織り込んでいない。

 ウクライナ当局は、14年からロシアと戦争状態にあり、いつ戦線が拡大してもおかしくなかったとの見方を示した。今回の侵攻を「まさか」と感じた我々は、「どの程度、安定的なのか」を甘く捉えていなかったか。

 2つ目は供給網の広がりに伴うマネジメントリスク。今回の事変を受けて日本の木材・住宅産業では国産材回帰の必要性を訴える声が高まっている。一足飛びに国内の木材供給網を整えることはできないが、広がった供給網が滞ったり、分断されたりするリスクへの対応も改めて突き付けられた。供給網をグローバルに広げるほどマネジメントが難しくなることを再認識したうえで、サプライチェーン整備に臨むべきだろう。

供給網を把握できていない

 さらに現状では多くの住宅会社が木材や資材の供給網をしっかり把握できていないことが原因で、どこにどれくらいの影響が出るかを測りかねて右往左往している。3つ目は供給網を協力会社任せにして、見える化できていないリスクだ。

 これでは有事への対応ができないだけでなく、今後求められるCO₂固定量の明示や木材の認証証明などへの対処も難しい。木材調達に詳しい建設業団体の幹部は「木材のCO₂固定量明示や木材デューデリジェンスが急速に問われ始めている。これを実現する前提が製品・素材レベルでの供給網の現状把握だ」と話す。まずは流通物資材の供給網を徹底的に洗い直し可視化する必要がある。

安達 功(あだち いさお)
日経コンストラクション記者、日経アーキテクチュア編集委員、日経ホームビルダー編集長、インフラ総合研究所長、日経BP総合研究所長などを経て現職。総合研究所ではSDGs、木材活用、IoT住宅、スマートシティ関連のソリューションを手掛けている