日本は米国の働きかけに応じて30年の温室効果ガス削減目標を引き上げた。賛否両論あるが、産業の競争力を損なわない具体策を国が示すかどうかが焦点になる。

 菅義偉首相は4月22日、閣僚が参加する地球温暖化対策推進本部で、日本の2030年度における温室効果ガス削減目標を引き上げると発表した。30年度の排出量を13年度比で46%削減する。同時に「50%(削減)の高みに向けて挑戦を続ける」と話した。

目標と策定プロセスに賛否

 菅首相は同日、米国主催の気候変動サミットでスピーチし、「決して容易な目標ではない」と認めた。19年度の排出量は12億1200万t。これを約7億9000万t以下にする。50%削減に挑むなら、約7億400万tとなる。毎年4500万~5500万tものすさまじい規模の削減を成し遂げなければならない。

4月22日の気候変動サミットに出席した菅義偉首相
4月22日の気候変動サミットに出席した菅義偉首相

 50年にカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)を実現するために、今から毎年、同じ削減量で減らしていくと計算すると、30年時点では45.9%の削減が必要になる。この計算で割り出された数字を意識して、新目標が決まったとみられる。

 菅首相は温対本部で大きく5つに取り組むと話した。(1)再生可能エネルギーなど脱炭素電源の最大限の活用、(2)投資を促す刺激策、(3)地域の脱炭素化への支援、(4)グリーン国際金融センターの創設、(5)アジアなど世界の脱炭素への移行の支援─―である。具体的に、どれほどの削減効果のある対策をいくつ積み上げるかは政府が急ピッチで調整中で、5月までに具体策や、再エネや原発、火力発電の中長期の利用方針「エネルギーミックス」を提案するもようだ。

 温室効果ガス排出の大半を占めるCO2排出の4割は、発電によるものだ。残りわずか9年では、CO2を排出しない脱炭素電源である再エネと原子力発電の最大限、活用することが鍵になる。工場などの大幅な省エネも必要となろう。原発の再稼働が進まないなか石炭火力を大幅に減らすため、電力料金が高くなる可能性もある。梶山弘志経済産業大臣は4月23日の会計で「再エネを最大限活用する」と強調し、これに原発を加えた、日本の全発電量に占める脱炭素電源の割合は「5割を超える」と話した。

 この目標と、その決定プロセスには賛否両論ある。09年や15年に温室効果ガス削減目標を決めた時は、産学の代表が出席する国の審議会が対策やエネルギーミックスを議論した上で、政治家が野心を積み増した。

 新目標は、議論の途中で目標達成の裏付けが公開されないまま、バイデン政権の要請に応じた政治家の判断で46%と決まった。4月22日夕方、日本経済新聞が首相の発表に先駆けて新目標を報じた。その時開かれていたエネルギーミックスを議論する審議会の途中で報道を知ったある委員は、「この審議会でエネルギーミックスを決めてから、目標を決めるのが筋だ。それなのに対策の積み上げではなく、政治で目標が決まった」と、憮然として発言した。

 中国との関係に緊張感が増す中、日米同盟の安定を重視する考えもあろう。だが、事前に経済産業省では「取り得る策を積み上げても30%台後半が限界」との声があった。梶山経産大臣は20日の会見で、「積み上げをした後は、官邸の判断」と語った。明確な目標達成の裏付けの見えないまま、目標を示したことには審議会委員だけでなく、産業界からも疑問の声が上がる。

 経産省でエネルギー行政に従事した東京大学の本部和彦客員教授は、「目標の実現可能性は非常に低い。電力業界による再エネ拡大や原発再稼働といった努力だけでは達成できない。製造業による電力需要の大幅削減、高い電力料金を受け入れることが前提となろう」と指摘する。

 たが、東京大学の髙村ゆかり教授は「昨年、50年のカーボンニュートラルを宣言していた。この公知の政策と整合する新目標であるからプロセスに問題は感じない」と理解を示し、「積み上げではいつまでも50年のカーボンニュートラルに整合する目標を掲げられない。政治家にしか決められない目標だ」と評価する。