国連開発計画が、「人間の安全保障特別報告書」を発表した。暴力的紛争や新型コロナウイルスによる人間の安全保障に対する脅威を警告した。

国連開発計画(UNDP)特別報告書は2022年2月8日にリリースされ、4月に日本での発表会が行われた。デジタルによるサイバー犯罪・格差、暴力的紛争、新型コロナウイルスなどの世界的な感染症、気候変動など、新世代型の脅威が台頭し、世界中で教育・健康・生活水準が向上する一方で、不安を感じながら暮らす人が7人に6人となり、移住を余儀なくされる人も増えていることなどに警鐘を鳴らし、連帯を訴えている<span class="fontSizeS">(出所:国連開発計画(UNDP))</span>
国連開発計画(UNDP)特別報告書は2022年2月8日にリリースされ、4月に日本での発表会が行われた。デジタルによるサイバー犯罪・格差、暴力的紛争、新型コロナウイルスなどの世界的な感染症、気候変動など、新世代型の脅威が台頭し、世界中で教育・健康・生活水準が向上する一方で、不安を感じながら暮らす人が7人に6人となり、移住を余儀なくされる人も増えていることなどに警鐘を鳴らし、連帯を訴えている(出所:国連開発計画(UNDP))

 国連開発計画(UNDP)による「人間の安全保障特別報告書」は「人新世の時代における人間の安全保障への新たな脅威」という副題を掲げている。「人新世」という言葉が使われたように、ESGを語る上でも重要な内容のものだ。

 報告書は、ロシアの軍事行動より前から、人間の安全保障に対して脅威が増加している状況を警告している。戦争、紛争、環境の激変や、環境変化に起因する自然災害などにより「移住せざるを得なくなった人」は2000年の4000万人から、20年時点で8000万人に増加した。さらにウクライナ危機による国内外での退避者は1000万人に上るとされ、個々人の安全すなわち「人間の安全保障」について、現在は今世紀最悪であると分かる。

退避・難民化は公衆衛生の危機

 退避・難民化はすなわち公衆衛生の低下、健康の危機につながる。

 筆者はアフリカでの難民激増が始まった1994年、難民に向けて医療・公衆衛生の援助を行う「国境なき医師団」のフランス・パリ本部と物流基地を取材した。パリ本部の取材で聞いたのが「紛争地での外科手術なども医師団は行うが、メインの仕事は公衆衛生の支援」ということ。物流基地に並ぶ資材からその本質を理解できた。子供向けのワクチン、救急用薬剤、輸液、衛生的な仮設トイレ資材、洗面などの衛生資材、さらには遺体を衛生的に管理する用材も並んでいた。

 いかに文化的な環境で暮らしていた人でも、退避や移住を強いられるとたちまちに疾患を防除する公衆衛生や、日常的な医療の全てが失われる。

移住防止に、新たな「連帯」

 UNDPの報告書は、暴力的紛争に加えデジタル格差などの新しい危機、さらには中長期的に気候変動による危機で移住を強いられる人が増えることにも警鐘を鳴らす。難民問題に取り組んだ緒方貞子氏やアマルティア・セン氏らは人間の安全保障を提唱し、「保護」と「エンパワーメント」の必要性を訴えた。報告書はその2つに加え、新たな脅威に向け「連帯」を強化すべきとし「今後は人類と地球の関係性に目を向け、人類同士、また人類と地球がより『連帯』することが求められている」と提言する。

 しかし、国連の常任理事国であるロシアが軍事侵攻を行い、国連自体が「連帯」への実効性のある対策を打ち出せていない。今回、短期間に起きた紛争による退避移住、さらには中長期的に気候変動による移住も「人間の安全保障」を脅かす。強い「連帯」を実現する国連の改革と新たな国際間の枠組みが求められている。

藤井省吾(ふじい・しょうご)
30年以上にわたり医療・健康を取材フィールドとする。医療雑誌「日経メディカル」記者、健康雑誌「日経ヘルス」編集長。健康・医療の最新情報サイト「日経Gooday」を立ち上げた。18年4月から日経BP総合研究所副所長メディカル・ヘルスラボ所長を経て、22年4月から現職