1.5℃目標達成にはエネルギーを使用する側の削減努力が欠かせない。ライフスタイルや生産の仕組みを変える具体例と必要なコストを示した。

 2022年4月4日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、温室効果ガスの削減(緩和)に関する報告書(第6次評価報告書第3作業部会報告書)を公表した。2010~19年の人間活動による温室効果ガス排出量は、増加率は鈍化しつつも依然として増え続けている。パリ協定の1.5℃目標を達成するには、25年までに排出量をピークアウトし、50年代初頭に実質排出ゼロにする必要があるとした。

 執筆に携わった立命館大学理工学部の長谷川知子准教授は本報告書の骨子を次のように話す。

 「50年のネットゼロに向け、化石燃料からのエネルギー転換、需要側(エネルギー使用者)によるCO₂排出削減を推し進め、それでも削減しきれない分をBECCS(CO₂回収・貯留付きバイオエネルギー)や植林などのネガティブエミッション技術で削減するという道筋を実現可能性とともに示した」

ライフスタイルの変容促す

 報告書の特徴の1つが、再生可能エネルギーをはじめとする脱炭素化技術の導入量とコストを定量的に示したことだ。20年に太陽光発電の累積導入量は世界で約700GWに達し、発電単価は10~19年の10年間で85%低下した。風力発電は同700GWを超え、発電単価は同55%低下。電気自動車(EV)用のリチウムイオン電池のコストは同85%低下し、EVの普及に貢献した。

 エネルギーの需要側、中でも私たち生活者が化石エネルギーに依存しないライフスタイルに変える重要性にも初めて言及し、その具体例を示したのも本報告書の特徴と言える。移動手段にガソリン車や航空機を使わずに電車や電動バイクなどのモビリティを使う、省エネ型の照明や家電を使う、食品ロスを減らすといった取り組みを推奨する。

1.5℃目標を達成するには生活者が化石燃料に依存しないライフスタイルに変える必要がある。モビリティの脱炭素化は有力な削減策になる。写真はイタリア・ミラノの自転車シェアリング<br><span class="fontSizeS">(写真:アフロ)</span>
1.5℃目標を達成するには生活者が化石燃料に依存しないライフスタイルに変える必要がある。モビリティの脱炭素化は有力な削減策になる。写真はイタリア・ミラノの自転車シェアリング
(写真:アフロ)

 また、コンパクトな街づくりなど都市域の対策の重要性を指摘。省エネや緑化などによりCO₂排出を実質ゼロにするネットゼロビルディングが可能になるとしている。産業部門では資源の効率的な利用やリサイクルを一層推進すべきという。

 注目すべきは、電動バイクや太陽光発電の導入、農業におけるメタンガス削減など43の削減策についてコストを示したことだ。その多くがCO₂削減量1t当たり100ドル(約1万3000円)以下で導入でき、総動員すれば30年の世界排出量を19年の少なくとも半分に抑えられるとした。

 ただし現状各国が提示している削減策では1.5℃目標は到底達成できない。DACCS(直接大気回収・貯留)やBECCSのコスト削減・早期導入も不可欠と報告書は主張する。